第9話 ボスがいないダンジョン3
【イロカネ】のダンジョン探索2日目。
スキル”鳥居渡り”で現地までやって来てスタートだ。こっちでの移動でやっぱり車はほしいので、今日も
ダンジョン探索といったが、正確にはダンジョンの探索ではない。
探索するのはその周辺だ。
「コレおいひぃですね」
「そうだねぇ」
みたらし団子。
駅前にあった和菓子屋さんに立ち寄って美味しそうだったので食べている。酒のつまみにはならなさそうだなぁ、という感想を抱いてしまうあたりダメ人間なのを実感する。
「おばちゃんおばちゃん、【イロカネ】のダンジョンってダンジョン化する前はどんな山だったの?」
「ダンジョン化する前? んー、あんまり印象ないねぇ。登りに行ったことあるよ、って人はちらほら聞くけど」
「だよねぇ」
「ダンジョン化してくれたおかげで冒険者の人たちが集まってきてくれたから、ウチとしては今の方が良いねぇ、アハハハハ!」
「イロカネのダンジョンになる前?」
お蕎麦屋さんに立ち寄った。ぼちぼちお昼時だったから情報収集もかねてね。決して天ぷらでビール飲みたいとか思ったわけじゃないよ?
「特になーんも無かったと思うけどねぇ。名前も知らなかったもん。ああでも、登ったことあるって人はたまに聞いたりしたよ」
「その人と会えたりしないですかねぇ」
「具体的に誰かっていわれるとちょっと困るわねぇ……登山用品のお店とかに行ってみたら? そういうお店の人なら登ったことあるかもしれないよ?」
「なるほど~、そうしてみます」
「お役に立てたかしら? ごゆっくり~」
女将さんは台所に戻っていった。忙しかったのかもしれない。
その間にも
「別荘地にするとかいう話があったんです、
登山用品のお店……というか、スポーツ用品のお店に来ていた。登山もスポーツの一種と言えるしね。
店員さんのひとりが山に登ったことがあって話を聞いているけど、まぁありふれた話という感じだ。
「お客さん、山頂まで行かれたんですか?」
「ええ。確かに眺めは良かったですねぇ」
「ダンジョン化しちゃったから、もう冒険者の方しかあそこからの景色は見られないんですよね。そういう意味ではレアな山になっちゃいました」
オレが店員さんと話している間、橿原ちゃんはその様子をじっと見つめていた。
「
「え、どうしたの急に」
車に戻って走り出し、信号待ちをしていると橿原ちゃんがぽつりとこぼした。
「いえ……ただ私、愛想ないとかよく言われるので。愛想ってどうすればよく見えるのかなと」
「橿原ちゃん、今以上に可愛くなってどうすんの……?」
どこ目指してんの?
でも愛想かぁ。うーん、
「酒だ。酒は全てを解決する」
「すみません。
「そもそもどうしてイロカネなんでしょうか」
ダンジョンに理屈を求めても無駄……と言いたいところだけど、今やっていることが多少の理屈を求めてのことなので少し考えてみる。
「昔は鉱山だったとか?」
「どなたもそんなこと言ってませんでしたし、図書館にもそういった資料は無かったと思いますが」
さっき図書館に行ってきたんだよね。この辺りの郷土資料とかを見ようと思って。だけどそれっぽい資料はなかった。ああ、地酒の本は大変興味深く拝見したよ。あとで橿原ちゃんに頼んで酒蔵に寄ってもらおう。
「仮に鉱山だったとしてもイロカネが埋まってたわけはないしね。あんなファンタジー鉱石」
「まあ、海のダンジョンだったら水にまつわるドロップや装備が手に入ることが多いので、ダンジョンの立地とドロップが全く無関係ってこともありませんけど」
「「うーん……」」
図書館の真ん前あったカフェでコーヒーを傾ける。橿原ちゃんが飲めるものもチョイスしないとね、たまには。一緒に頼んだケーキも嬉しそうに食べていてなによりだ。
座っているのは窓際の席で、窓からは図書館とそれに併設された公園を望むことができる。
外から中の様子がよく分かる公園で、というのも中に小さな池があって、そのおかげで木とかが少なくて視線の通りがよかった。
公園の看板には――『ダイダラボッチの足あと池』と書かれていた。
「……ダイダラボッチ」
「?」
「いや、そこに”ダイダラボッチの足あと”って書いてあって」
「……ダイダラボッチって伝説の巨人ですよね。たしかいろんな所に足跡をつけたとかいう。あとは――」
「「土をこぼして山ができた」」
色々な土地に伝承が残ってるらしいんだよね。富士山みたいな山を作ろうとして土を運んでいたら、こぼしちゃって小さな山になった、みたいな。
「【イロカネ】ダンジョンの山、どうだと思う? そういう伝承あると思う?」
「可能性はあるかと」
「だとしたら敵がドロップするのが金属なのも何となく想像がつくねぇ」
「というと」
「イロカネはおとりだ。要は連中、土を守っているんじゃないか? いつか、こぼした土を回収に来るかもしれないだろ―― ダイダラボッチが」
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