第30話
ヴィーヴィィー……、机に雑に置かれたままのスマホが震えている。夏樹は少し引き攣ったような顔をした後、電話に出ていた。
こういう時は魔法を使って通信せずに、機械に頼るんだよね。通信用の鬼を使うのも慣れてないと大変そうだし、陸上の巻貝を通信機代わりに使うやつもいるんだったっけね。あたいは人間が作り出した文明の機器が便利そうで良いと思うよ。ボタンを押すだけで任意の相手に連絡できるんだから簡単さ。途中で交信局を挟むような通信を使いたくないもんだ。
通話が終わった夏樹は溜息を吐いていた。いったい何だってのさ。
「おはるさん。討伐の仕事入ったよ」
「やったね!」
「喜んでらんないよ。あー……、こういうのって小焼に頼んだほうがすぐ終わりそうなんだけど、あっちはあっちでサキュバスの世話がありそうだし、行くか」
「あたいはいつでも準備オッケーさ! 相手は何だい? 悪魔かい? 天使かい? 魔王クラスかい? それならあたいはビデオを回して全世界に配信するさ!」
「収益化もできるかもな。じゃなくて、そういうのじゃないよ。ゾンビだ」
「ゾンビ? 死者が動きだしたってのかい?」
「詳しくは移動しながら説明するよ。時間かけたらそんだけ被害が増えちまうかもしれないから」
夏樹はどうにもビミョーな表情をしているが、あたいはバトルが見れるなら嬉しいもんだ。しかもゾンビときたら、動きも鈍いし、あたいの姿を感知できないはずだから、足を引っかけて転ばせる技がいくらでもできるし、夏樹の手伝いがやりやすいもんさ。
夏樹は装備している試験管を変えていた。中の薬品の種類を変えていくぐらいだから、強力な相手かもしれないね。強化されたゾンビなら大変さ。こりゃあ、楽しみだ。
蛍光ピンクの薬を蛍光ブルーに数本入れ替えて、ポーチにいくつか薬草を入れ、手袋をはめて部屋を出る夏樹の肩に乗っかる。飛んで移動するよりもこうやって運んでもらうほうが楽で良いのさ。
車に乗って、現場へと急ぐ。
「それで、どういう仕事なのさ?」
「ここから南の村に呪術師が住んでてな。そいつは……表じゃ口にできないようなことを生業としてんだ」
「呪術師ってだけで裏の世界の人っぽいね」
「まあ、呪いをかけるだけなら表で生活できるよ。誰かに恨みを晴らしたい時に利用できるような三十分のカウンセリングルームもあるぐらいだぞ。おれちょっとやってみようかと思ったんだけど、呪術スキルが上手く使えなかったんだよな」
「やろうとすんじゃないよ」
「血統の問題かもな。ダークエルフの小焼ならできるかもしれねぇ。まあ、あいつの場合は呪うよりも殴って解決だろうけど」
「あんた、殴られたほうが良いよ」
「あはは、そりゃそうだ。で、呪術師はゾンビパウダーって
「制御できないって大変じゃないかい」
「一人なら良かったんだが、墓中の死体に使っちまったようだ。そいつが暴れてて、今、村がえらいことになってる。村長からの連絡だ」
「へえ。で、夏樹はそのゾンビ達を討伐するってのかい?」
「そういうこと。ウイルス感染でのゾンビじゃねぇからまだましだよ」
と言いつつ車を走らせているけれど、村の墓中のゾンビがいるって考えたら、すごく大変そうだ。ワクワクしてきたよ! これは、夏樹がいかにきちんとしたエクソシストか知ることができるってもんだ。そんで、あたいもバトルできるってもんだから、楽しみだねぇ!
現場の村に着いたようだ。村には人っ子ひとりいない。いや、ゾンビらしき影がうろついている。
「家から出ないように言ってっけど、外出して今から戻ってくる人もいるかもしれねぇから、そんなのを見つけたら最優先で保護だ。おはるさん、上からよく見張っててくれ」
「任せな!」
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