第51話

「よーし! 魔物も倒したし、帰るかぁ!」

「いやいやいやいや! あんた何普通に帰ろうとしてんだい! 一瞬で倒さないでくんなよ!」

 床に倒れた魔物を魔術を組み込んだ縄で縛って、爽やかに「帰る」なんて言うもんじゃないさ。

 あたいはもっと血沸き肉躍るバトルが見れると思ったのに、一瞬過ぎて何が起こったかもわからなかったもんだよ。空の試験管を持ってたから、夏樹が魔法薬をぶっかけたんだとは思うけんど。

「あんた、いったいこのジジィに何したのさ?」

「教会で栽培してるマンドラゴラ配合の特別聖水ぶっかけただけだ。やっぱり小焼のとこのマンドラゴラは効果が違うな。即効性があって良い」

「それにしても早過ぎさね。あたいはもっと激しいバトルを見たいんだよ。もっと骨のあるやつと戦ってくんなよ!」

「そりゃあちとこのじいさんに失礼だぞ。ほら、これでも戦おうとしてたんだ」

 夏樹はジジィの手を掴んで指先を押した。鋭い爪の先から黒い液体が滴り落ちてくる。なんだこりゃ気持ち悪い。

 更に気持ち悪いことと言えば、滴り落ちる黒い液体を夏樹が試験管に集め始めたことだ。

「おはるさん指先押しといてくれ。これ集めたいんだ」

「この気持ち悪いの何さ?」

「毒だ。この爪で引っ掻かれたら毒を食らって死んじまう」

「そうだってんなら、どうして手は縛り上げてないんだい!」

「もう十分縛ってるからな。これで動けるのは小焼くらいだよ。あいつならちょっと力入れただけで縄が弾け飛ぶ」

「……怖すぎないかい?」

「つくづく、あいつが味方で良かったと思ってる」

 これだけ頑丈な魔封じのある縄を弾け飛ばすって怖すぎるさ。この縄もどうせ夏樹が作ったものだろうけど、あたいが触れてもわかるくらいには強力な一品だってわかる。

 毒を集めるためにジジィの指先を押していくけど、起きる気配は全くしない。聖水の効果ってどれだけあるんだか。

「ねえ夏樹、本当に聖水をぶっかけただけかい?」

「あー、あと昏睡魔法もかけたよ。不眠症の人を寝かせるのには便利だからさ、サキュバスに教えてもらったんだ」

「そのサキュバスって……」

「リフレにいる子だ。小焼の連れてる子じゃねぇよ」

 そりゃリフレのサキュバスならいくらでもそういう技知ってそうなもんだ。添い寝するのが仕事のような子らだし……ってことは!?

「あんた、仕事でもないのにリフレ行ったのかい!? 聖職者だってのに!」

「違う違う。おれは店に行ってねぇよ。向こうから魔法薬の依頼をしに来ることもあんだって。お金貰うのも悪いしさ、魔術を教えてもらってんだ。ギルド通してならお金貰うんだけどな」

 ギルド通さないほうがお得な感じがするのあたいだけかい? とは言わないでおこう。夏樹はどうやら純粋に人助けが好きな行き過ぎた良い人のような雰囲気がするし。優しさで狂ってんじゃないかこの人。

 で、車に色んなものを回収して、ギルドに向かって一直線さ。

 仕事の報告をしたら報酬をたんまり貰った。ジジィがいなくなっちまった畑はどうすんだか気になったけんど、どうやらギルドの共同畑になるようだった。

「よし! 仕事も終わったし、教会にでも行くか!」

「そうだねぇ。あのサキュバスもどうなったか見ておきたいし」

「畑の肥料になってなきゃ良いけど……。サキュバスの栄養剤について試してもらいてぇし」

「あの神父なら肥料にしそうだから怖いんだよね」

「気に入ってる様子だから大丈夫だと思うんだけどなぁ……。けっこう気まぐれだから怖ぇな」

 車に乗って教会へ向かう。途中でスライムを踏んでスリップしたけど、なんとか無事に辿り着いた。

「なんだか叫び声が聞こえるねぇ」

「マンドラゴラを抜いてる声だな。収穫の季節だからなぁ」

「収穫の季節ってあるものなんだね……」

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