それからなんやかんやあって、うちの人はきっちりサキュバス用の栄養剤を仕上げた。町の人に教会にいるシスターがサキュバスだってバレた時は、騒ぎになっちまってたけど、神父の人望のお陰でなんとか解決した。その代わり、夏樹は神父に殴られていた。……まあ、夏樹が町の中心で「サキュバス」って言わなきゃバレなかったものだったからね。

 夏樹を責めてるやつもいたけど、姿を消したあたいが片っ端からぶん殴ってやったら、怖がってどっか行っちまった。こういう時、姿を消せるのは便利なものさ。

 そんで、やっと落ち着いて、サキュバス用の栄養剤も納品したし、報酬もたんまりもらったところだ。孤児院に戻りゃ子ども達が迎えてくれるんだから、夏樹はけっこう良い先生やってるんだと思うよ。

 あたいとしちゃ、もっと激しいバトルが見たかったんだけど、付き添ってたら、そのうち見れるもんだよね。

「はぁー、つーかーれーたー」

「お疲れさん。神父に殴られたり子どもに追い回されたり忙しかったねぇ」

「子どもと追いかけっこするのは良いんだけど、小焼に殴られるのはけっこうダメージ残るんだよな。加減してくれてるとは思うんだけど、元が強いからさ」

「まあ、仕方ないね。それくらいのことをしたものさ」

「だな。あのサキュバスも小焼が身元保証人になってるなら、よそのエクソシストが退治することもないだろ」

 そう言いつつ、夏樹はタバコに火をつけていた。紫煙が部屋を漂う。タバコにしちゃけっこうフルーティーな香りがする。こういう甘ったるいのは、夜の営業をするオンナが好きなもんさ。

「それ、夏樹のタバコなのかい?」

「おう。別の依頼が入ってさ。試しに調合してみたんだけど、おれ、甘いの苦手だからどこまで甘くしたら良いのかさっぱりわからないんだよな。自分で吸っててなんか妙な気分になっちまうよ。おはるさん試してくんねぇか?」

「あたいも甘いのは苦手さ」

 と返したら夏樹は「そっか。それならあのサキュバスに頼んでみるか」と言いながら灰皿に押し付けていた。けっこう長めに作ってあるのに勿体ないような気もするけど、苦手なものを吸い続けても苦行になっちまうよね。

 夏樹は小さく伸びをしてから、整頓されていない作業台をゴソゴソ弄っている。

 工房の片付けも早くしたいねぇ。これだと作業効率も低くなりそうだよ。夏樹は何処に何があるかわかってるみたいだけど、あたいが手伝うには効率が悪いのさ。

「おはるさん。これ飲んでみてほしいんだ」

「わかったよ。飲んだら良いんだね」

 夏樹が変なものをあたいに飲ませるとは思えないから、素直にコップを受け取る。

 コップの中には黄金色の液体が満たされていた。ふんわりと優しい匂いがする。リラックス効果でもありそうな香りだ。一口含む。さらっとした舌触りかと思えば、少しとろみがある。ピリッとした辛さの後に、しつこくない甘みがあって美味しい。あたいの好きな味だ。これならいくらでも飲みたくなるところだけど、夏樹が作ったなら魔法薬だろうし、大量に飲むものじゃないと思う。

「どうかな?」

「美味しいよ。これならいくらでも飲みたいくらいさね」

「そりゃ良かったよ。四つ葉を取ってもおはるさんの姿を見れて嬉しいし」

 いつの間に夏樹の手には四つ葉の冠があった。あたいがいつも頭に乗せてるやつだ。あたいが飲んでる間に取るなんて、なかなかやるね。完全に油断してたさ。

 それだけの手練れのエクソシストなんだから、この先も一緒にいれば、あたいの好きな血沸き肉躍るバトルを見ることができそうだね。あの神父がいるなら、激しいバトルも期待できるはずさ。

「ねえ夏樹。あたい、これからもあんたの側にいて良いかい?」

「なんか、その言い方すっごい色気あって良いな! 好きだ! 一緒にいてくれ!」

「急に変なこと言わないどくれよ!」

「あいただっ!」

 頬に蹴りを入れたら、ぞんがい魔力が上がっていたらしく、夏樹は床で目を回している。言葉の意味はわかんないけど、もっと付き合ってやるのさ。

 あたいはコップに残った薬を飲みほして、気絶している彼の頬に口づけた。


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よつばのしあわせシロップ 末千屋 コイメ @kozuku

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