第10話

 森で迷うわりに、車だとスイスイッと駆け抜けていく。

「迷わないんだね?」

「教会から孤児院への道はわかりやすいんだ」

「じゃあ何で森で迷ってたのさ?」

「徒歩だったからだ」

「何で徒歩だったのさ?」

「孤児院からの出先で呼ばれたからだよ。森を抜けたら早いって、先方に言われたからさ。いやぁ、おはるさんがいて助かった」

「へえ」

 森を抜けたら早いって教えたやつは、きちんとルート案内をつけさせるべきだったね。おかげで、あたいは楽しそうなことに出会えたから感謝しとこうか。

「それにしても、あの神父って車乗るんだねぇ。走り屋のように見えるってのに」

「確かに小焼は車よりバイクで移動するやつだな。荷運び用に車を持ってるって感じだから、滅多に乗ってねぇよ。って、あー!」

 急ブレーキをかけて、車は停まった。何か、踏んだような……乗り上げ方をしちまってるけど…………、まさか、ね?

「あんた、人を轢いたかい?」

「人は轢いてねぇよ! ただ、何かは、踏んだな……。見てみっか」

 見通しも良い一本道だ。車道も広い。対向車線にはなんにも走っていなかったし、周りには人もいない。田舎の風景が広がっている。

 外に出て、車を確認する。タイヤにスライムがくっついていた。

「スライムを轢いたのは罪になんないのかい?」

「いや、あー、えーっと、大丈夫か?」

 スライムがぴくぴく動く。どうやら大丈夫らしい。飛び出してごめんなさいと言っていた。

 タイヤからスライムを剥がして、夏樹は薬をかけてやっていた。塗るよりかけるって感じだ。ばしゃばしゃかけてるけど、あれで本当にあってんのかねぇ。雑にも見えるよ。

 スライムは一回り大きくなって、去っていった。魔法薬で強くなっちまったのかも。もう雑魚モンスターって言わせないって勢いだ。

 スライムが去ったので、車に戻る。

「なんか焦げ臭くないかい?」

「さっきのスライムが原因だよなぁ。あー、孤児院についたら小焼に連絡しねぇと……」

「叱られそうだねぇ」

「絶対叱られる。間違いない。今から言い訳考えねぇと」

 飛び出してきたスライムが悪いとも言い切れない。スライムは飛び出してくるもんだ。習性だから仕方ない。

 経験値もアイテムも貰えずに、神父からお叱りを貰うことになる未来に夏樹は震えていた。

 再び急ブレーキ。まーた、何か乗り上げたね。

「もう! 今度は何だ!?」

「スライムじゃないかい?」

 タイヤに触手が絡みついていた。どうやら排水溝の中に本体がいるようだ。

 あたいが中に入って見てきてやろう。四つ葉を夏樹に預けて、排水溝に飛び込む。どろどろの粘液を垂らした触手が辺りに伸びている。触手植物の一種で間違いなさそうだ。

 夏樹の元に戻り、四つ葉を返してもらう。

「どうだった?」

「触手植物だったよ。除草したほうが良いね。そろそろ人間の服を溶かしそうなサイズさ」

「そんじゃ、これ撒いとくか」

 夏樹は、蛍光グリーンの液体をタイヤに絡み付いた触手にかける。触手から白い煙があがり、灰になっちまった。

 なんて恐ろしい薬を持ち歩いてんだこの人! シビれちまうねぇ!

「小焼の車だから何か呼び寄せちまうのかな……」

「ダークエルフならそうだろうねぇ。エルフ族は植物に好かれるもんさ」

「そっか。納得した!」

 車に乗り込んで走り出す。焦げ臭さが増した。

 孤児院に着くまでに車が燃えなきゃ良いんだけどね。

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