第11話
やっと孤児院に辿り着いた頃には、車から灰色の煙があがっていた。こりゃあ、完全に故障しちまってそうだ。
夏樹は蒼褪めた顔をしながら電話をかけていた。スピーカー通話でもないのに説教が聞こえてくる。あーあ、可哀想に。不幸な事故だったとも言えるんだけど、防ぎようもあったんだ。なにしろ、エクソシストだから車に防御魔法もかけれるし、魔法無効化にもできるはずなんだ。そこまで頭が回っていないのかこの人ができないのかはわかんないけど、どっちにしろもう後の祭りさね。
「どうだった?」
「ちょうど車検の時期だから、修理ついでに車検にも出して、その費用をおれが全部持てってさ……。手配しとかねぇと。金足りるかなぁ……」
財布を見ながら夏樹は呟いていた。孤児院で働いていると言っても、エクソシストなんだから、討伐依頼をこなせば金は手に入る。ここはいっちょバトッてもらいたいところだね。
「ねえ、あんたエクソシストなんだから、ギルドに行って魔物討伐の受注したらどうだい? それぐらいできるだろ?」
「仕方ないから、やるかぁ……。先に荷物を孤児院に下ろしてからだな」
車から荷物を下ろして運ぶ。あたいは自分のベッドを運ぶことにした。これぐらいの重さならどうにか持って飛べる。台車を押す夏樹の後ろを飛んでついていく。
「夏樹先生おかえりなさーい!」
「おう、おかえり。みんな良い子にしてたか?」
「もちろん!」
子ども達が挨拶してくる。けっこう慕われているようだ。この人柄の良さなら、慕われるのもわかるよ。優しさがにじみ出てるくらいさね。あと、うっかりしてて憎めない愛嬌があるから、人が寄ってくるのさ。
「あ、ピクシーだ! 夏樹先生、ピクシー捕まえたの?」
「捕まえたんじゃねぇよ。おれの手伝いをしてくれるんだ。相棒ってやつだな」
「ピクシーを使い魔にするの? もっとカッコイイドラゴン連れてきてよー!」
「おはるさんはドラゴンよりも強いぞ!」
いや、いくらあたいでも、さすがにドラゴンには負けると思うよ。ドラゴンは、モンスターの中でも人気の種族だし、戦闘力も高いってわかりきってるじゃないか。
「これ、小焼神父からみんなにってりんごだ」
「やったぁー! さっすが神父様だね!」
りんごの詰まったダンボールを二箱抱えて子どもは走って行った。あたいの分のりんごは、というと……もう一箱ある。三箱もりんごを渡してくるって、どれだけ貰ったんだろうね。それだけ信徒から愛されている神父様ってころなんだろうけど、貰い過ぎじゃないかい。
子ども達と挨拶をしつつ、やっと夏樹の部屋に着いたらしい。
部屋の中はごちゃごちゃしていて、正直言って、汚い。掃除のやりがいがある部屋だ。夏樹が寝てから掃除をしよう。
孤児院での仕事をほっぽといて、夏樹とギルドに足を運んだ。大剣や弓を担いだやつがいる。エルフもいるし、ドワーフもいる。人間以外も仕事を求めて集まってきてんだ。
「お兄ちゃーん! エクソシストのお兄ちゃんにピッタリの牛乳泥棒を捕まえてくれってお仕事あるよ! 最近、街中で頻出してるらしいの。野良サキュバスだと思う」
「そういや小焼もサキュバスの話してたな……」
「サキュバス討伐なら、チョチョイのチョイでしょ! お兄ちゃんには
「じゃあ、それ、おれが受けるよ」
サキュバス討伐を受注するのは良いけど、どうやって捕まえるつもりなんだろうね。牛乳を枕元に置くにしても、なかなか難しいよ。
「ところで、お兄ちゃんの肩にいるのってピクシーだよね。あたし、ピクシー種初めて見たよ。ちっちゃくて可愛いのにおっぱいおっきいんだね!」
「あんたいったい何なのさ」
「あ、ごめんね。あたしはふゆ。夏樹の妹で、ギルドで依頼の紹介しているよ」
顔が似てると思ったけんど、血の繋がりのある兄妹だったんだね。それにしても、初対面で胸のサイズの話をするもんかねぇ。
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