第8話
とりあえずあひるに乗っかって湯船に浸かる。浮き輪のようになっているあひるは一個だけだった。他にも色とりどりのプラスティックのあひるが浮かんでいる。夏樹が遊ぶから浮かべていただけかもしれないし、あの兄さんがあひる好きなのかもしれないから、そのへんは何とも言えないや。
あんまり浸かっているとすぐにのぼせるから、湯船から出る。体を洗うにもあたいサイズの石鹸はさすがに……あるかもしれない。小さくなった石鹸が網にまとめて入れられていた。これは単にあの兄さんの勿体無いと思う精神のファインプレーだね。小さくなった石鹸を使い切る前に排水に流してしまうやつも多いってのに、きっちりしてんだ。
網から石鹸を出して、体を洗う。翅も洗っておかないとけっこう汚れるんだ。空気中の埃が静電気でくっついてきてんのかねぇ。
石鹸で髪を洗うとガビガビになっちまうから、シャンプーを使いたい。シャンプーのヘッドの上空から勢いをつけて蹴りを入れる。よし、出た。下に洗面器を押してきてたから、洗面器に入ったシャンプーで頭を洗う。蛇口を回すのも殴れば簡単にできる。それほど湯量が必要じゃないから、お湯が出る程度に開けば良いのさ。よし。良い感じに回った。体も頭も洗えて一石二鳥さね。あとはコンディショナーをシャンプーの時と同じ方法でして、いっちょあがり!
もう一度湯船に浸かる。あー、良いねぇ。広い風呂で何も考えずにぷかぷか浮いてられるのは最高さ。疲労が一気にぶっ飛ぶ感じだ。まあ、人間からしたら普通のサイズの風呂なんだろうけど、あたいからしたら広い風呂なのさ。特別な気分を味わえるね。洞窟だと空き缶を使った風呂だから、焚き木の加減も難しいし、こういうのはとても良いよ。
風呂を出たらタオルハンカチが置いてあったから、それで体を拭いて、服を着て、髪を乾かす。
さすがにドライヤーの直風を浴びたら火傷しちまうから、ドライヤーを固定して、あたいが体を動かしながら――って、これなら体も簡単に乾かせたんだね。カピカピになりそうだから嫌だけど。服を着て、部屋に戻る。
夏樹はベッドに座って本を読んでいたから、あたいは肩に座ってから四つ葉を頭に乗っけた。
「何読んでんだい?」
「わっ! 急に驚かせねぇでくれよ! ビックリしただろ」
「わるいねぇ。ピクシーに限らず、妖精種ってのは、イタズラが好きなんだよ」
「そういえばそうだったな。あー、ビックリした。心臓飛び出るかと思ったや」
「心臓が飛び出たら、悪魔族に渡してやるさ。良い値段で売れるよ。エクソシストの心臓は価値が高そうだ」
「そりゃねぇって、怖いこと言わないでくれよ」
笑いながら話してくれるので、この程度のイタズラなら驚くだけで終わるようだ。心の狭い人間だと怒って追いかけまわしてくるから、面白いんだけどねぇ。見失った瞬間の行き場の無い怒りを抱えてる姿を見るのが好きなのさ。その後に魔物に遭遇した時のバトルがまた楽しいんだ。
「で、何読んでんのさ?」
「小焼がサキュバスの話してたろ? どんな種族だったか調べなおしてんだ。滅多に会わないからさ」
「サキュバスなら、繁華街のリラクゼーションサロンにでもいるだろうに」
「確かによくいるけどさ……。あそこで働いてるような子は牛乳を盗まねぇだろ」
「それもそうさね。行ったことあるのかい? サキュバスのいる店」
「客から病気貰ったって相談受けたくらいだな」
「エクソシストなのにサキュバスから相談されるのかい?」
「正確には、店のオーナーだな。魔法薬作れるのがこの辺りだとおれだけなんだ。人間やエルフの薬を作れる医者は多くても、魔族に対する薬を作れる医者は少なくってさ」
「あんたって、けっこうすごいんだね」
「あはは、もっと褒めてくれて良いんだぞ!」
エクソシストとしての腕はどうだかわからないけんど、医者として、魔法薬師としては、かなり腕が立つようだね。そういえば森で人狼を一発で倒すぐらいの薬を使ってたっけ……。
「よーし、そろそろ寝るか。明日は孤児院に戻って薬も作らないといけねぇし、忙しいぞ。みんなにおはるさんを紹介したいしな!」
夏樹がいるところだから、平和そうだけど、子どもの肉は美味いから、魔物にも狙われやすいはずさ。どんな激しいバトルが見れるか楽しみだねぇ。
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