第7話

 神父が風呂から戻ってきたから、夏樹に先に入ってもらうことにした。

 頭の四つ葉を取ったらあたいの姿は見えなくなるから、一緒に入っても良かったんだけどね。あの神父なら堂々と股間の逸物をさらせそうだけど、うちの人は照れそうな気がしたのさ。勝手なイメージで。

 客室にはあたいと神父の二人っきりだ。何で自室に帰らないのかと思って見てたら目が合った。

「私に何か?」

「あんた、部屋に帰らないのかい?」

「帰ってほしいなら帰りますが、その前に一つだけ良いですか?」

「何だい?」

「夏樹はエクソシストですが、人間です。私のように魔力回路も持ちませんし、混血児でもありません」

「で、何さ?」

「……あいつは、人を助けるためなら、自分のことを後回しにするやつです。適度に止めてやってください」

 夏樹の言っていたとおり、優しい神父様だ。厳しさのほうがどうしても目立っちまうけど、心根は本当に優しい人のようだ。

「わかった。あたいに任せな!」

「止めないとひとりで何でも抱え込んでしまうので。……ピクシーがついていてくれるなら、助かります。世話してやってください」

「あんたが入る隙がないくらいに世話してやるさね」

「それはとても助かりますね」

 ふわっと、雰囲気が変わった。表情に変わりはないように見えるけんど、あたいを認めてくれたように感じる。

 それだけ話して神父は出て行った。あたいはバスケットのベッドに寝転がる。ふかふかしていてお日様の香りがするクッションだ。日干ししてあるとは、丁寧な人のようだね。

 掛け布団代わりにタオルハンカチを入れられていた。猫の刺繍が入ってる。……まさか、あの兄さんが刺繍したんじゃないよね。だとしたら、見た目のわりに手先が器用で羨ましくなっちまう。

 ゴロゴロしていたら夏樹が部屋に戻ってきた。ろくに髪を乾かしていないようで、艶々の黒髪が水気を含んで更に光って見える。

「おはるさーん? あり? いないのか?」

「いるよ」

「わっ! 声だけ聞こえる!」

 四つ葉のクローバーを頭に乗せる。あたいの姿を見て夏樹はぱぁあっと明るい笑顔になった。子どものようで可愛いね。

「髪がびちゃびちゃのままじゃないかい。きちんと乾かしてから戻ってきなよ」

「おはるさんを待たせてるの悪いかと思ってさ」

「あたいとしちゃ、髪をびちゃびちゃで来られるほうがワルさね。ほら、ドライヤー持ってきな。あたいが乾かしてやるさ」

「いやいや! 自分でやっから良いよ! ほら、おはるさんはお風呂行って」

「そう言われても、あたいは風呂場が何処か知らないよ」

「連れて行くよ。ドライヤーもそっちだし」

 というわけで、夏樹に連れられ風呂場へ向かう。神父の服を借りてるからだろうけど、夏樹はワンピースを着てるようになっていた。この人が小さいだけのはずだよね? あの兄さんが特別デカいわけじゃないよね? 頭ではわかってるけれど、いまいちサイズ感がわからないよ。

「というか、あんた、ズボンはいてないのかい?」

「小焼の足の長さだとずるんずるんでさ、折っても折っても長いから、やめたんだ。パンツははいてっから安心してくれ!」

「威張って言うことじゃないのさ」

 しかもわざわざ見せなくて良いんだよ。ひまわりの総柄って眩しすぎやしないかい……。これなら一緒に風呂入っても気にしないタイプだったかもしれないね。

「じゃ、あたいはひとっ風呂浴びてくるよ」

「おう。小焼が浴槽にあひる浮かべてくれてたぞ」

 あひるはあたいに関係無い気がするんだけどねえ……。

 四つ葉を取って、服を脱いで、浴室に入る。

 浴槽にはあひるが浮かんでいた。真ん中に穴があるから浮き輪だね。……あたい用だったや。

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