第6話

 今から孤児院に帰るのは遅いからってことで、今日は教会に泊めてもらうことになった。

 当然のことながら、あたいサイズの寝床は無い。外で葉っぱでも集めてこようかと思っていたら、神父がピクニックバスケットを持ってきた。

「これで良いですか?」

「おっ! 良いサイズじゃねぇか。こんなのよくあったな?」

「伯母がくれたんですよ。ワインが入っていました。瓶が割れないようにクッションも入っていたので、どうですか?」

 あたいはバスケットの中に入る。ふかふかで良いクッションだ。こりゃ寝心地が良い。

「とても寝心地が良いよ。ありがとね」

「どういたしまして。これも夏樹が持って帰ってください。ピクシーの寝床なんて作れないでしょうし」

「お言葉に甘えさせてもらうよ。ありがとな」

「……あと、夏樹にはこれを」

 神父は牛乳瓶を渡していた。牛乳泥棒というかサキュバス避けのおまじないなんだったっけね。教会に来るようなドジ踏むサキュバスなんているかねぇ。

「そういえば、風呂に入らないんですか?」

「いや、おまえが客室に案内したからだろ。風呂に入らせてくれよ」

「着替え出しておくので、勝手に入ってください。……ピクシーも一緒に入るんですか?」

「あたいは後で入るよ。洗面器にでもお湯を置いといてくんな」

「魔法薬飲めばおっきくなれるんだから、一緒にはい――ぐぇっ!」

 夏樹が変なことを言い出したので、頬を思いっきり叩いて、それから引っ張って、抓ってやった。

 神父の表情が少しだけやわらいだような気がする。笑ってんのかもしれない。

「ピクシーに負けるエクソシストというのもなかなか愉快ですね」

「痛い痛い! おれが悪かったから、もう抓らねぇでくれぇ!」

「わかりゃ良いのさ」

 夏樹の頬から手を離してやる。

 赤くなってるのが少し面白い。涙目でぷるぷる震えてる姿が雨に濡れた犬ようで可愛く思っちまうよ。

 先に神父が風呂に入るらしく、その後呼びに来てくれるので、部屋で待つことになった。

 教会の二階から見える街の灯りは……まばらだ。街といっても、集落なんだよね。そこまで発展してるわけでもないというか、なんというか……。自然と密接したのんびりした良い街って感じだよ。

 窓から見える範囲に花や野菜が見えた。

 教会の敷地内だと思うから、あの兄さんはけっこう植物の世話が好きなタイプなのかもしれない。

「おはるさん。何見てんだ?」

「教会の中に畑があるんだと思ってね」

「ああ。小焼が土弄りするのが好きだからな。家庭菜園ってやつだ。自分で育てた野菜はいっそう美味しいんだって言ってた」

「そりゃそうだろうね。手間暇かけて育てたもんは美味しいのさ」

「ここの肥料は街を荒らしにきた魔物を細切れにしてるって噂があるくらいだ。本当にそうなのかは知らねぇんだけど、小焼ならやりかねないからさぁ。おれも怖くて聞けないんだ」

 確かにあの兄さんならやりそうだ。グレネードランチャーをぶっ放すの上手いって話を聞いたばかりだし、木っ端みじんにした魔物を畑に撒いてもなんらおかしくないって思っちまう。

「野菜以外にも花も植えてあるし、マンドラゴラなんて魔女が取引を求めてくるぐらいに高品質なんだぞ。おれも魔法薬作る時によく貰うんだ」

「……へえ」

「あと、あっちの小屋に触手植物を飼ってんだってよ」

「何で?」

「趣味だな。けっこう可愛いんだってさ。おれは見たことねぇけど」

 触手植物にも種類があるもんだけど、だいたいは近付いたものに対して絡みついて、ぬるぬるした粘液を出すんだ。あたいも森でひっかかったことがある。すぐに抜け出せたけど、苦手な子は絡みつかれただけで気分が萎えちまうよ。

「夏樹は何か飼ってないのかい?」

「おれは孤児院にいるからさ、何か飼うにしても、子どものアレルギー配慮しないとな」

 この人はすごく真面目に仕事してるってことがわかっただけだったね。

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