第44話

「そんじゃ、このベヒモスがおれが処理しておくよ」

「あたいにかかりゃ一時間で終わるさ!」

 と言えば、二人はさっさと帰って行った。サキュバスが何か言いたそうな表情をしていたけど、きっとあれだね、オーバーキルしてないって言いたかったんだろうね。誰もあんたがやったって思ってないよ。言わないけど。

 夏樹は悲惨な死体に薬品をかけていた。じゅぅうと白い煙が上がって、妙なにおいがする。

「何してんだい?」

「死体がけっこうデカかったからさ、こうやって処理してんだ。小焼にしては原型留めてんだなぁって」

 夏樹がこう言うってことは、普段はもっと原型が無いような退治をしてるってことだ。木っ端みじんにしちまうって言ってたくらいだし、ひどいもんだね……。聖職者だってのに慈悲を感じられないよ。

「あたいが手伝うことはあるかい?」

「おう! たくさんあるぞ。まず、小焼がその辺に置いた魔除けを回収してくれ。こういうキラキラの石だ」

 夏樹はキラキラ光っている丸い石を拾う。魔除けの石ってのを回収して良いもんかわからんないけんど、回収しろって言われたなら、回収するしかないね。神父が置いたものだし。

「これっていつも置いてるんじゃないのかい?」

「月一で交換だな。もっと効果を持続させてぇところだけど、悪魔が来たら一気に効果が切れちまうんだ。弱体化するために置いてるって思ってくれたら良いかな」

「ってことは、これを置いてるから、こういう悲惨な死体になった……?」

「ちがうちがう。それとこれは関係ない。こりゃ魔除けだ。魔族がここに入ると、なんか疲れるなぁって気持ちにさせて遠ざけるもんなんだ。上級種族だとあんまり気にならないかもな」

「ほーん。そんなら、これは夏樹が作ってるのかい?」

「おう。おれの仕事だ。設置は小焼がしてっけどな。ポイっとな」

「投げてんだね……」

 だからぞんざいにあちこちに転がってるのか……。

 あたいは微かな魔力を感じる小石を拾って、夏樹が置いてくれた皮袋に入れていく。どれだけあるのかわかんないけど、けっこう時間がかかりそうだ。一時間じゃ終わらないね。変な見栄をはっちまったさ。

「これ全部で何個あるのさ?」

「覚えてねぇけど、だいたい百個はあっかな。いつも見つけきれずに置いてくんだ。けど、今日はおはるさんがいるし、おれよりも目線が低いから見つけられっかなって」

「さすがにキリがないさね」

「わりぃな。やっぱりそのまま帰るか」

「というか、この石って回収する理由あるのかい?」

「もう一度魔除けの効果を付与したいんだ」

「ここら一帯にすりゃ良いじゃないか」

「あー、それはそうなんだけど……、おれの魔力だと無理かな。小焼ぐらいありゃできたんだろうけどなぁ……」

「それなら、あんたじゃなくて、神父が魔除けしたら良いだろ?」

「それをしたら、おれの仕事が減っちまうし、あいつの負担が増えちまうから」

 夏樹が言うには、元々は神父がやっていた仕事らしい。それをあまりにも業務量が多いからって理由で夏樹が魔除けの効果を付与するところまではしているとか。最後の石を撒くところをしない理由は、単に腕力の問題らしい。

「投げないといけないのかい?」

「一気に片付けるためには投げるのが一番なんだ。こういうところだと特に!」

 というわけで、そこは今までどおりに神父がやるそうだ。

 そんでまあ色々あたいも頑張って石を八十個集めることができた。さすがに翅の付け根が痛くなっちまうくらいに飛んだから、後は夏樹の肩に乗って休憩しつつ指示するだけさ。あたいのほうが人間よりも目が良いから、すぐに見つけられるし。

「最後の一個ー! あったよ!」

「よっしゃあ! 全回収だ!」

 はしゃいで喜ぶ姿は子どもと変わらないんだよね。可愛い男だよ、まったく。

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