第43話
夏樹はせっせこら準備を進めているので、あたいは指示に従って移動する。腰に巻いた試験管立てというかなんというかわからんベルトは魔法薬でカラフルに見える。どれもこれも蛍光色をしてるから、目立つったらありゃしないんだけど、あたいの目にそう見えるだけかもしれない。人間が見たらもっと暗い色かもしれないし、魔物だと真っ白に見えるかもしれない。どっかの魔法と科学の館でも見学すればわかるかもしれないけど、今はそんな場合じゃないんだ。
準備が終わったら即出発だ。孤児院を護ってるエクソシストが不在になって大丈夫か心配になっちまうけど、よく考えなくても夏樹は夜はぐっすり寝ているし、朝も寝坊するくらいだから護っていないのかもしれない。戦闘向きとは思えない人だから、他の人が守衛やってんだろうね……。エルフも働いているくらいだし。
さて、車に乗って荒れた道を進んでいけば、草の焼けるにおいがしてきた。
「燃えてるにおいがするね」
「あー、まあ、小焼は爆破魔法が得意だからな……。爆破しちまったかもな」
「神父としてそれはどうなんだい?」
「すぐに肉片にしちまうようなやつだから、考えるだけ無駄ってもんだ」
「それもそうだね」
夏樹自身も神父に何度か話したことがあるらしいが、けっきょくのところ、グレネードランチャーかロケットランチャーを持ち出した方が仕事が早く終わるってことで話も終わらされたらしい……。脳筋神父だね。
「あの神父なら殴っても勝てそうだね」
「おう。小焼は拳に魔力を集中させて殴ることができるぞ。壁だって壊せる」
「……怖すぎやしないかい」
「そうだなぁ。目の前で悪魔が地面に叩きつけられて木っ端みじんになる現場を見れば、壁が壊れるくらい怖くないぞ」
「その現場も怖すぎるし、あの神父、そんなことしたのかい?」
「おう。三カ月ぐらい前にな」
「思ったよりも最近の話だね!?」
「あはは、小焼の力業の話ならネタが一生分ぐらいあるぞ。時間がどれだけあっても足りないくらいだ。……と、話している間についた」
辺りは妙なにおいがたちこめている。家が燃えているのが見えた。
「夏樹! あそこ、燃えてるよ!」
「あれは廃墟だって情報もらってっから安心してくれ。それよりも、小焼とサキュバスがどうなったかだな。おはるさん、上から見てきてくれ」
「任せな!」
あたいは上空に飛び上がる。近くに上昇気流ができているから、簡単に辺りを見回せる程度には飛べた。
それほど遠くはない場所に金髪と空色の髪が見えたから、あれで間違いなさそうだ。なんだか煙が上がっていたような気もしなくもないんだけど……。
「夏樹! あっちだよ!」
「ありがと。よし、行くか!」
夏樹の肩に座り、移動を開始する。やっぱりこの移動が一番楽だね。飛び続けると魔力が減っちまうから、休憩も大事ってもんさ。
あたいの指示で向かった先に神父とサキュバスがいた。その足元には悲惨な死体。
「もしかしてもう終わっちまったか? ベヒモスが出たって聞いてきたんだけど」
「ゾウっぽい何かなら今しがたけいがハートを撃ち抜いてメロメロにして殺しましたよ」
ハートどころか色々撃ち抜かれてるやばい死体になっちまってるけどね……。これは神父はやったんだろうねぇ。サキュバスが首を激しく横に振って何かを訴えようとしてるもの。
「へぇ、すっげぇな! サキュバスってこんなこともできんのか!」
夏樹は満面の笑みだ。
神父の話を信じてるわけじゃなくて、ちょっといじって遊んでみたくなったみたいだね。その気持ちはすっごくわかるさ。ほら、サキュバスが困ったような表情をしているよ。
「これは、小焼様が――」
「けいがやりました」
「すごいんだねえあんた! 見直したよ!」
あたいが声をかければ、サキュバスは更に困った表情をしてぷるぷる震えていた。誰もあんたがやったって思ってないよ。安心しな。とは言わないけどね。
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