第42話
「へっ? そうか?」
「まずいよ! 味を似せたのかい?」
「そこまで似せてねぇって。……うわ、まず」
「あんた、先に自分で飲んでからあたいに勧めてくんなよ」
夏樹は試作品を飲んですぐに吐き出していた。
後味まで最悪だ。でも、魔力は湧き上がってきたような気がする。これならドラゴンをワンパンでノックアウトできるかもしれない。それぐらい強気にはしてくれる。
「味はともかく、効果はありそうだよ。あたい、今ならドラゴンもワンパンで倒せそうさ」
「そっか。味は改善する必要があっけど、効果は完璧、と」
夏樹はメモをすらすらーっと書いていた。ミミズが這ったような文字だけんど、夏樹には読めるんだよね。あたいにゃさっぱりわからないさ。
「それじゃあ、別の調合にしてみっか」
「今度は味を調えてくんなよ」
工房の中はあたいが片づけても、すぐにぐちゃぐちゃになっちまう。夏樹が出しっぱなしにしている薬草を元の引き出しに戻したらすぐに「何処やったっけ?」なんて言い出すから、触るのはやめたほうが良いってもんだ。だからって、作業スペースが埋もれるぐらいに物を出すのはどうかと思う。
「ねえ夏樹、使い終わったのは片づけて良いかい?」
「ああ、頼むよ!」
「あたいはどれを使い終わってるのかわかんないけどね」
「こっちから半分だ」
空の試験管立てから右側が使い終わったもの置場らしい。
あたいはそこら辺に置いてある道具やら薬草やら呪物やらを持ち上げて、元の場所へ片づけていく。だけど、何処から出したのかわからないものってのも当然あるわけで。
「夏樹ー。これは何処だい?」
「後で片付けるから、そこに置いといてくれ」
「そうしたらまた増えちまうだろ。今教えてくんなよ」
「それもそうだな。それはあっちの右上」
「あいあい」
夏樹が薬を調合している場所から向かって左の棚の右上に薬草を運ぶ。
これだけの数の薬草を瞬時に取り出して調合できるくらいなんだから、本当に腕は良いんだと思う。
だけど、エクソシストの仕事ではないんだよねぇ。あたいは、血沸き肉躍るバトルを見たいからついてきたってもんなのに、これだと魔法薬師のお手伝いって感じさ。
まあ、これはこれで楽しいもんだ。ずっと森にいたら触ることのないようなものばっかだからね。
「ねえ夏樹。こう、退治の依頼って急遽入ったりしないのかい?」
「んー。急遽入ることはあるっちゃあるけど……。ああ、そろそろ時期的にあるかな」
「時期的にあるってどういうことさ」
「月の動きが関係あるんだ」
夏樹が言うには、月がまるっとしていたら血が騒ぐやつらがいるってことらしい。なんとなく言いたいことはわかるんだけど、満月じゃなくて「まるっとしていたら」って言い方にちょっとキュンとしちまったよ。あたいは疲れてるのかねぇ。
夏樹が薬を作るのをぼーっと眺めていたら、突然工房内の電話が鳴り響いた。
「あーい。え? ベヒモスが出たって? そりゃあ大変だな。すぐ準備するよ」
ベヒモスっていうと、ゾウのような悪魔だ。そんな上級が出たとあっちゃ、エクソシストの出番だね!
「おはるさん、現場に行くから準備してくれ。おれは先に小焼に電話しとく」
「何で神父に電話するんだい?」
「おれよりも戦闘慣れしてるやつに先に行ってもらったほうが良いからな。小焼ならケガしてもおれの薬ですぐ治療できっし」
遠回しに神父を人外扱いしてないか心配になっちまうけど、夏樹は本当に電話を始めた。
……何の準備をしたら良いかわかんないね。
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