第41話

 孤児院に戻って、早速工房で試作さ。

 夏樹はあーでもないこーでもないと言いつつ、そこらへんに薬草やらトカゲの尻尾やらを置いている。

 難しい本を開いて何か調べている間に、あたいは夏樹がぐちゃぐちゃにした品を整頓する。どれを片付けて良いかわかんないから、とりあえず並べてみた。乱雑に積み重なってるよりは見やすいだろうし、重さもすぐに測れるようになるはずさ。

「おはるさんありがと!」

「どういたしまして。あんたねぇ、もう少し丁寧にモノを置こうと思わないのかい?」

「そうは言うけどさぁ、どれが必要かおれもまだわかってないんだよ。思いつくものを片っ端から出したらこうなったって感じだな!」

「ほーん……」

 この調子でサキュバス用の栄養剤なんて作れるのかって思っちまうよ。まあ、腕は確かだから作っちまうんだろうけど……。

「メイが言ってたけど、精液に似てるのを作るのかい?」

「そうだなぁ。そのほうがサキュバスの体にも吸収しやすいだろうし、健康的な雰囲気がすっから」

「もういっそ、夏樹のを混ぜてやりゃ良いんじゃないかい?」

「あはは……、極論そうなっちまうけど、おれの体がもたねぇよ」

 夏樹は笑いながら後ろ頭を掻いている。

 続けて「精液だったらなんでも良いってわけじゃねぇぞ」と付け加えられた。

 サキュバスが求めるのは、活きの良い男らしい。そりゃあ、死にかけだと精力も抜けないだろうし、精液なんて出なさそうだもねぇ。それぐらいはあたいでもわかるさ。

 で、活きの良い男から精力を抜いて暮らしてるのが、通常のサキュバス。健康的で精神面も安定しているのが極上らしい。特殊なサキュバスは枯れてる死にかけから精力を抜いていくって聞いたけど、そりゃあトドメをさしちまってそうだ。そういう性癖なら仕方ないね。あたいにゃ他人の性癖をどうこう文句言えやしないよ。夏樹が胸ばっか見てるのはどうかと思うけんど。

「いっそあの神父様のを貰えりゃ良さそうだねぇ。万病に効きそうじゃないかい?」

「あー、あれだけ魔力保持量も高けりゃ、サキュバスにとっちゃ最上級の栄養になるだろうな。本人に言うと拳がとんできそうだけど」

「それもそうだね」

「でも、小焼の側にいるサキュバス、へろへろになってたぞ。横にいるだけで回復できるはずだってのに……。とんだ落ちこぼれを拾ってんのかな。庇護欲をかりたてっから、愛玩してんのかな」

「優しくしてんのかねぇ……。畑の肥料になってないから優しいのか……」

「おう。畑の肥料になってないから優しいほうだぞ」

 優しいの基準が畑の肥料にされるかされないかってのが怖すぎる。

 夏樹は話しつつもきちんと栄養剤を作っている様子だった。牛乳瓶に白い液体が注がれている。

「おはるさん、これ飲んでみてくれっか?」

「あたいが飲むのかい?」

「とりあえずだよ。おはるさんなら変なお世辞も言わずにどこが悪いか教えてくれるだろ?」

「あいあい。飲むよ」

 ミニチュアのコップに注がれた栄養剤を受け取る。

 まずは匂い。悪くない。ちょっとフルーティな感じがする。花のような香りもする。あたいが森にいた頃に嗅いでいたような香りだ。

「精液に似せるなら、香りから違うんじゃないかい?」

「いやあ、さすがにそこまで再現すんのもどうかなって」

「相手がサキュバスだから難しいところだねぇ」

 あたいがピクシーだから参考になるのかどうかビミョーなところだけんど、人間以外が飲まないとわからないところもあるからって、ことだよね? お世辞うんぬんよりも、そこだよね?

 一口飲んでみる。粘性の高いドロドロした感じが気持ち悪い。味はめちゃくちゃ苦い。クソまずい。

「まずすぎるよこれ!」

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