第45話

 孤児院に戻って、工房に大量の石を運び込んで――ってやってる間にもう深夜さ。あと数時間したら朝の聖務をする時間になりそうだってのに、夏樹は石をじーっと見つめてる。省エネだとかの取り組みでランプを使わずにロウソクの灯りで見てるからか、妙な色気を感じられた。可愛い顔してるってのに、こう、黙ってたらけっこう男前なんだねぇ……。

 って、あたいは何考えてんだっての!

「あんた、その石どうするつもりだい? そろそろ寝ないと明日の聖務も寝坊してすっぽかしちまうよ」

「いやぁ、いつ寝てもおれは聖務をすっぽかしちまうけどな!」

「それは笑って言うことじゃないんだよ!」

「あいただっ! もう少し手加減してくれよぉ……」

 ちょっぴり太めの眉が八の字に下がる。人の好さが出てるわかりやすい眉だよ。こういう犬っころがその辺にいるもんだ。この孤児院では飼ってないようだけど。

「そういえば、ドラゴンの子はどうしたんだい?」

「あー、そういえば、隣町から出向してきたオーク族が心当たりがあるって連絡取ってくれてるんだってよ。エルフから書置きだ」

 工房のとっ散らかった机に書置きがあった。よくこんなところに置いたね。すぐに紛れて捨てられちまいそうだってのに……。

「というか、ここって誰でも入れるのかい!? 毒草もあるんだから危ないだろうに!」

「さすがに誰でもってわけじゃねぇよ。小焼が許可出してる子だけだ。こう、太腿がむちっとした感じの……」

「え。あの神父ってそういうタイプかい?」

「今のは冗談だ。まあ、太腿がむちっとした感じの女なら好きだぞ、あいつ」

「へえ。あの一緒にいるサキュバスなんて、むちむちだったね」

「おう。魅了チャームなんて使わなくても、あれは小焼の好みだ。ちなみにおれは――」

「あんたは胸がデカい女だろ」

「そっ! おはるさんのような子がタイプだな」

「急に変なこと言うんじゃないよ!」

「痛っ! 手加減してくれってぇ……」

 急に何を言い出すんかわかんないんだ、このエクソシスト。

 ピクシーを連れてるだけでもエクソシストとしては妙に浮いてる存在になっちまってそうだけど、周りはどうとも思ってないから……夏樹に人望があるってことなのかねぇ。もしくは、巨乳好きが周知されてるから、あたいが横にいてもなんにも思われないか。うーん、なんとも言えないもんだ。

 そんなおふざけをしつつも夏樹は石を一つ一つ磨いていた。磨かれた石はピカピカだ。そりゃ磨いてるんだからピカピカになるだろうけど、なんというか、子どもが喜んでもっていきそうなくらいにピカピカになった。魔除けの効果を付与されたってことなのかねぇ……。磨いてるクロスに何か魔法でもかけてるのか。

「ねえ、そのクロス、何か魔法でもあんのかい?」

「ああ、これな。おれが作った魔法薬に浸してたんだ。磨いただけで魔除け効果が付与される。ギルドで魔法薬は売ってるんだけど、すぐ売り切れっから、そろそろ作らねぇとなぁ」

「あんたって、けっこうすごいことしてるんだね」

「あはは、ありがとな。すごいって言ってもらえて嬉しいよ」

 へにゃっと笑う顔はお日様のようにあったかいんだ。妙な人間だよほんと。

「あ、そうだ。おはるさんにプレゼントがあるんだ。サキュバス用の栄養剤の副産物なんだけどな」

「何だってんだい?」

「口に合うかわからねぇし、効果もきちんとあるかわかんねぇけど、四つ葉のクローバーのエキスから作ったシロップだ。いつも頭に葉っぱ乗せるのも重くねぇかなって思ってさ。」

「重くなったら取れば良いからね」

「そんなこと言わねぇでくれよ。おれはおはるさんの姿を見てたいんだ」

「それ、胸を見たいってだけじゃないよね?」

「違う違う! 神に誓っても違う!」

「そんじゃま、試してみるだけ試そうかねぇ」

 夏樹から小さなコップを受け取る。蜂蜜のような香りがする。先に四つ葉を頭から取っておこう。こうしたら、効果がわかりやすいだろ?

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