第46話
小さなコップに満たされたシロップを口に含む。
シロップなだけあって甘ったるいんだけど、悪い甘さじゃない。さらっとしてて、後味はけっこう爽やかだ。夏樹が作るもんだから薬草だとか呪物が色々と入ってるんだろうけど、あたいにゃ味の詳しいことなんてわからない。ただ「とても効果がありそう!」と思うような苦味は無くて、甘くて爽やかな感じだ。
「味は調整しないといけねぇかもだけど、どんな感じだ?」
「悪い味ではないよ。こう、甘いのは甘くて、激甘な甘ったるさだけど、悪い甘さじゃないさ。爽やかな感じもするし」
「そうか。そりゃ良かったよ」
「……で、大事なのは味じゃないよね? あんた、あたしの姿見えてるのかい?」
「おっ! そういえば四つ葉乗っけてないな!」
「その反応だと見えてるってことだね」
「見えてる! きちんと効果が発揮されて良かったよ。変に甘いシロップを飲ますことにならなくて良かった」
「まあ、甘いのはもう少し控えめにして欲しいけど、こういうのが好きなピクシーも多いと思うよ」
あたいはどちらかと言うとしょっぱいものが好きだから、甘いキャンディより塩が多めの煎餅のようなものが良いんだ。
それを聞いた夏樹は熱心にメモしている様子だった。真面目だねぇ。
「あとは効果がどれだけ続くかってわかれば良いんだけどなぁ」
「あんたしか確認のしようがないね。あたいは自分で自分が見えないかどうかわかんないからね」
「そうだな。とりあえず、今日はもう遅いし、寝るか!」
「だね」
寝室に移動して寝たらもう朝だ。窓から陽が射しこんでても夏樹はぐーすかぴーって寝てる。聖務させたほうが良いとは思うけど、昨日は遅かったから寝かせておいたほうが良いのか。どっちが良いんだかわかんないもんだが、夏樹は教会にいるわけでもないし、エクソシストで魔法薬師って考えたら、寝てても良いのかしれない。
試しに頬をぶっ叩いてみても「うーん……」としか言わない。起きないね。
そのまましばらく放置していたら、スマホが鳴り響いた。
「夏樹ー! 電話だよ! 起きな!」
「ううーん……。ふぁい、もしもしぃ……?」
起きたばかりってわかる声だ。相手が誰だか見てなかったんだけど、夏樹はあくびをして、伸びをしつつ応対している。
「……ああ、毒の息を吐くドラゴン? それは小焼に言ってくれ」
どうやら相手は妹のふゆのようだ。せっかくの討伐依頼だってのに、神父に回しちまったよ。……ドラゴンの相手も夏樹ならできると思うんだけどねぇ。まあ、無理してほしくないから、できるやつにやってもらったほうが良いさね。
「んー。よく寝たぁ。おはるさん、おはよ」
「おはよ。あんた、あたいの姿見えてるのかい?」
「見えてるよ。だけど、なんだか、だんだんうっすらになって……あ、消えちまった!」
「ということは、効果が切れたってことだね」
あたいは四つ葉のクローバーを頭に乗っける。夏樹は見るからに安心したかのような表情をしていた。あたいの姿は見えなくてもいるってわかってるはずなのに、不思議な男だね。
「じゃあ、薬の効果はだいたい五時間ぐらいだな」
「そうだね。それよりも、さっきの電話は何だったんだい? あたいは討伐依頼やりたかったんだけどねぇ」
「毒の沼に行くと回復しながらの討伐になっちまうから、確実に一発で仕留められる小焼に頼んだほうが良いんだよ。あいつに毒消しのハーブ渡してたっけ……。連絡しとくか」
血沸き肉躍るバトルを見たいもんなんだけど、なかなか見れないねぇ。これはこれでけっこう楽しいから、ついてきたことを後悔しちゃいないけどさ。やっぱりバトルを見たいんだ。
「ドラゴン以外に討伐依頼受けなよ」
「ギルドに納品に行くから、その時に聞いてみるよ」
「よーし。あたい、張り切って手伝うからね!」
あたいがそう言うと、夏樹はへにゃっと笑ってた。
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