第47話
身支度をして、食堂で子ども達と朝食を取って、追いかけっこをして遊んで、魔法薬についての講義をして――とけっこう夏樹は忙しい。エクソシストだって言っても聖職者だし、神父でもあるんだよね? あたいはいまいちわかっていないけど……、夏樹は聖職者が持っているような記号を首からさげていないし。
「夏樹って小焼兄さんのような記号を首にぶら下げてないんだね?」
「あー、ロザリオか? 絡まって首を吊っちまいそうになったことがあるから、それからつけてないんだ」
「外してて良いものなのかい?」
「まあ、おれは教会にいるわけでもねぇし、みんなそこまで気にしてないと思うぞ。小焼がつけてなかったら変な感じに見えるかもしれねぇけど」
「そりゃあそうだろうねぇ」
「あれは救いの象徴だから、あれを見て神に救われると思う人もいるわけだ。おれは神じゃねぇし、聖務もきっちりしてねぇし、生臭坊主と同じ感じかもな!」
「生臭エクソシストって感じかい? なんだか魚臭そうだねぇ」
「あはは、面白いこと言うなぁ」
なんて話をしながら、ギルドに納品する商品を車に詰め込んだ。
魔法薬は瓶に入れてるから、われちまったら大損害になっちまいそうだ。材料も貴重なものが多いはずだし、注意が必要――とは思うけんど、夏樹はけっこう大雑把に入れていた。
「あんた、そんなに大雑把に入れてわれるとは思わないのかい?」
「それについては大丈夫だ。小焼がぶん回してもわれないように魔法かけてあっから」
「……いつの間にかけたんだい?」
「いつって言われると、おはるさんが運ぶ前にかけたけど」
「もしかして無音詠唱ができるってのかい!?」
「え、え、そ、そんなに驚くことか? これぐらいなら術式組み込んでおけばすぐに発動できると思っけど」
「術式を組み込むって何言ってんだい! あんた、そんなにすごいことできるなら、もっとアピールしておきなよ! 瓶がわれて困る人もいるんだからさ!」
「おはるさんがそう言うなら、アピールしてみるよ」
頬を掻きながら笑う夏樹はへにゃっとした犬のようで可愛い。どことなく犬っぽいんだよね。しかもちっこい犬だ。
それはさておき、荷物を詰め込んだ車はギルドに向かって走り出す。途中でスライムを轢きそうになったので、あたいがワンパンで仕留めておいた。経験値稼ぎには良いね。スライムぐらいならあたいの拳でも十分に仕留められるんだ。もっと魔力がありゃ悪魔退治も手伝えるところだけど、それには夏樹の魔法薬が必要になるだろうし、有事の際しか飲ませてもらえなさそうだ。
「お兄ちゃん納品ありがとうね。これ、売り上げ」
「おう。ありがとな」
「ねえふゆ。何か討伐の依頼はないかい?」
「はいはい。討伐依頼ね。おはるさんが受けられそうなやつは――」
「あたいじゃなくて夏樹が受けられるもの出してくんなよ」
「お兄ちゃんはエクソシストとしての腕は最高だから、どれでもできるよ。得手不得手があるだけで。だから、おはるさんに合わせたほうが良いかなぁって」
エクソシストとしての腕は最高だって言ってるくらいなんだから、その腕を存分に発揮できるやつを見たいもんだけど、どれが良いんだか……。
あたいに合わせた依頼だと夏樹には簡単すぎるかもしれないもんだし、そもそも勝手に受注して良いものなのか……。
「ねえ夏樹。あたいが仕事受けても良いのかい?」
「ん? おはるさんがやりたいってならおれは何も反対しねぇよ」
「それじゃあ、この畑荒らしをどうにかする依頼でも良いかい?」
「ふゆ。これ、倒した魔物の処理は自由にして良いやつか?」
「そうだね。畑を荒らす魔物をどうにかしてほしいだけだから、お兄ちゃんの工房に持ち帰っても問題なし!」
「じゃあ、これ受けるよ」
「オッケー。じゃあ、おはるさんが受注したことにしておくね!」
「そうしてくれ」
よくわからないけど、夏樹が手伝ってくれることだけはわかったし、倒した魔物を持ち帰るつもりのようだ。畑荒らしをする雑魚モンスターぐらいなら、あたいでもどうにかなるはずさね!
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