第35話

 説教も終わったので、さっさと帰るようだ。

 夏樹の肩に乗っかってりゃ勝手に移動してくれるから楽だし良いもんだよ。あたいにゃ人間の倍は移動に時間かかっちまうからねぇ。

 車に乗って、孤児院へ向かって出発さ。

「それにしても、あれだけで良いのかい? もっとお仕置きしないのかい?」

「反省したみてぇだし、罰を与える必要もねぇよ。おれは聖職者としてあいつの罪を許してやったしな」

「こういう時だけ聖職者として働くんだねぇ。聖務してないくせに」

「あはは、そういうのは教会にいる小焼神父がすっから良いんだって。おれが神へ祈りを捧げている間に人が死んじまったら誰も救われねぇだろ」

「そういう考え方もあるにはあるね」

 だからって、聖務日課をすっぽかして良いもんではないはずだけど、言わないでおいてやっかね。言ってることは悪いことでもないし、夏樹はエクソシストとしての業務をきちんとこなしているから、一応聖務をやっていることになるのかもしれない。……祈ってないことについてはどうなのかって感じだけどね。

 孤児院に着けば夕飯の時間だった。

 食堂では子どもたちが既に食事を始めている。あたいらも夕食を受け取って、席に着く。あたい用のテーブルも夏樹が設置してくれるから、楽なもんさ。

「で、食前の祈りはしないのかい?」

「『いただきます』で全部通じるもんだけどな。おはるさんはそんなにおれが祈ってるところ見たいのか?」

「言えないんじゃないかって心配しているだけさ。……言えるんだよね? 誤魔化しているわけじゃないんだよね?」

「あったりまえだろ! おれはきちんと食事前の祈りの言葉も式典の言葉もわかってっよ。言う機会が無いだけで」

「まあ、小焼神父がいればそうなっちまうさね」

「司祭様がいりゃあな。おれも一応神父ではあるんだぞ」

「ほーん。そんな話より、食事を始めたいから祈りの言葉をやってくんなよ」

「あいあい。父よ、あなたのいつくしみに感謝して、この食事を頂きます。ここに用意されたものを祝福し私たちの心と体を支える糧としてください。……いただきます!」

「いただきます」

 ちょっと妙な間が入ったけど、いただきますって言ったからもう食べて良いってことだね?

 本日の夕飯は、ごはん、豚肉のねぎ塩焼き、ちくわとキャベツのナムル、えのきとはるさめのスープさ。どっちかっていうと、キョンシーが好きそうな献立だね。あの子らも呪術師と共に行動してるような子らだっけ。

 さて、まずは豚肉のねぎ塩焼きさ。添えられているレタスに肉を包んで食べると、シャクッとしたレタスの食感で歯ごたえがあって、豚肉の甘味がねぎ塩のしょっぱさで上手く引き出されていて、酒のあてのしても使えるような気がするよ。孤児院で飲酒はできそうにないけどね!

 ちくわとキャベツのナムルは口に入れると胡麻の香りがふわぁっとあがってきて、そこに生姜のピリッとした味わいとニンニクの風味がベストマッチさ。こりゃあ、クセになりそうな味だね。こっちも酒のあてに良さそうだと思うよ。ごはんとの相性も最高さ。

 えのきとはるさめのスープは、シンプルだけどもひと手間加えたって感じのもんさ。粉末のインスタントかと思いきや、きちんと鶏がらスープを作っている雰囲気だった。ザーサイのコリコリした食感とえのきのふにゃっとしててコリッとした感じが良いし、はるさめがちゅるんと滑っていくのも良いもんだ。これはこれで味が濃いから、酒の……全部酒に合いそうだね。いっそ飲酒して良いか聞いてみるかねぇ。

「ねえ夏樹。飲酒ってして良いのかい?」

「へっ? 酒飲むの? 悪くはないと思うけど、買ってこねぇと無いなぁ」

「今度街に出た時に買ってくんなよ」

「おはるさんって酒飲むのか?」

「飲むさ! あんたは飲まないのかい?」

「おれは儀式のワイン一口で顔が赤くなっちまうから駄目だなぁ」

「弱すぎやしないかい……」

「あはは、小焼がもう飲むなって怒るくらいだからなぁ」

 色んな意味で心配になっちまうようなやつだね、この人。

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