第34話
「うるさいうるさい! 僕のキメラは最強なんだ! 行けー!」
「おーおー、最強のキメラが相手だと大変だなぁ」
間延びした声をあげながら、夏樹は地面を蹴って、後ずさった。ついでに片手で試験管の栓を外し、地面に中身を撒いている。
あたいにゃどういう効果がある薬なのかわかんないけんど、何か意味があって撒いていると思う。変に手伝うよりも近くの木の上から見てたほうが良さそうだ。別にあたいはキメラとバトりたいわけじゃないし、自分がバトりたいんでもない。激しいバトルを見て楽しみたいだけさ。
あたいが肩から退いたら、夏樹はもっと身軽になるはずだ。特にあたいを庇おうともしてないけんど、あの人の雰囲気的に、あたいがいたら邪魔になりそうだから、退いているほうが良いのさ。
危なくなったら手伝ってやりゃ良いけんど、どう見ても余裕の表情で、遊びに付き合ってるようにしか見えないんだよねぇ……。戦い慣れてる動きだよ、ありゃ。
神父に殴られるってことで慣れてるとしても、実戦経験のある動きだ。無駄が無い。子どもの遊びに付き合うオトナという雰囲気だ。
「何でエクソシスト一人倒すのにそんなに時間がかかるんだよ! もっと早く動けるだろ!」
「キメラのせいにしてやんなよ。こいつはけっこう頑張ってるぞ」
合成されているのは、ライオンと蛇と鷲だと思う。全部死体だね。腐ってるのが見てわかるよ。ゾンビパウダーってやつで動かしてるんだとしたら、すごい技術だと思うんだけど、これは相手が悪かったねぇ。
夏樹はキメラの攻撃を避けているだけで、攻撃しない。死体損壊だとかそういうあれの配慮してるんだろうねぇ。こんな時も優しいやつだよ。
「くそくそくそ! 逃げてばかりで卑怯だ! 攻撃もできないくせに!」
「あはは、そう来るか。仕方ねぇなぁ」
夏樹は魔法薬を一本地面に落とす。その刹那、まばゆい閃光が大地を貫き、巻き起こる旋風が木々を激しく揺らした。
あたいは吹き飛ばされないようになんとか木の影に回れたけんど、力強い風に数メートル吹っ飛ばされた呪術師は家の壁にぶち当たって気絶したようだ。キメラは怯えたように伏せている。
「ちっとやりすぎちまったか?」
「すごいねえあんた! 風の魔法を使えるのかい?」
「声はするけど姿が見えねぇんだよなぁ。おはるさん、見えるようにしてくれ」
「あいよ!」
頭に四つ葉のクローバーを乗せる。夏樹はへにゃっと笑った。さっきまでキリッとしてたのが嘘のようなくらいにへにゃへにゃした笑顔だよ。カワイイやつだねほんと。
そんで、夏樹はキメラの頭を撫でていた。もうキメラもすっかり夏樹に懐いているというか服従しちまってるね。忠誠を誓ってるよこいつは。
「で、で、あんた、風の魔法を使えるのかい?」
「風の魔法はけっこう得意なんだ。あとは木かな。こういう緑を使う自然系のものとおれは相性が良いんだって、魔女に言われたよ」
「ほーん。そりゃあ、専門家に見てもらってるから確かな情報だね」
「まあ、子どものお仕置きぐらいにしか使わないけどな。魔族相手だと風より光のほうが効果的だし」
子どものお仕置きで突風でぶっ飛ばすのもなかなかなもんだよ……。
さて、気絶してる呪術師の頬をペチペチ叩いて気付けをした。
目を覚ましたガキは降参したようにグッと悔しそうに俯いた。こうやってみりゃまだまだ可愛いガキなもんだよ。クソ迷惑なガキだけどね!
「おまえには、無許可で墓をあばいて、これまた無許可で死体をゾンビにした罪と無免許で合成獣を作った罪がある。悔い改めろ!」
「ごめんなさい……」
「よし! 謝ったから許しを与えよう! おれがおまえを許す」
夏樹がここに呼ばれた理由ってもしかして……、説教で解決するから? 前科者にしたくないものねぇ。
「おまえは才能があっから、今度はきちんと許可を取って自分が管理できる数を把握してからゾンビにしろよ! 呪術師としてこれからも励め! 作ったキメラはきちんと世話するんだぞ」
クソガキの頭を乱暴にぐしゃぐしゃ撫でて、夏樹はニカッと笑っていた。
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