第3話

 教会の二階は居住スペースになっていた。

 教会の裏側って呼ばれそうな場所に初めて入ったけんど、けっこう広いもんだ。

「おはるさん。キッチンはこっちだ」

「あんた、料理できるのかい?」

「おれは、生卵をレンジでチンして叱られたくらいの腕前だ!」

 胸を張って言うことじゃないんだよ。

 全く料理ができそうにないやつに夕飯の支度を頼むとは、あの兄さん、なかなかチャレンジャーだ。

 これは、あたいを試そうってわけかい!

「おはるさんは料理できるのか?」

「あたいに任せな! これぐらいチョチョイのチョイさね!」

「でも、そのサイズだと卵を割るのも大変だよな?」

「そりゃあね。あんた、良い魔法薬持ってないかい? 魔力を上げられるやつとかさ」

「ああ、強化バフかかるやつならあるよ。けど、ピクシーの体への使用量は――」

「良いから寄越しな! がぶ飲みなんてしないさね!」

 あたいは夏樹からピンクのド派手な薬を貰う。

 なんだか甘ったるくて胸焼けがしそうだ。これなら甘酒を飲むほうがよっぽど良いよ。

 身体がカッカッしてきてあったかい。魔力がみなぎっている。これなら、あたいも人間サイズになれる!

 集中すればポンッと、視線が高くなった。

 夏樹と目が合う。意外と背が低いんだね。さっきの神父が特別デカいってわけじゃなくて、この人が小さいんだ。

「すっげえ! でっかいおっぱい!」

「いきなり何言ってんだい!」

「痛っ! わりぃわりぃ! つい口が滑っちまった!」

 頬を勢いよく引っ叩いたら夏樹はふっ飛んで転んだ。あたいでもはっ倒せるのはどうかと思うから、体幹を鍛えさせたいね。

 やれやれ、世話の焼ける男だよ。

「ピクシーって人間サイズにもなれるんだな?」

「魔力がじゅうぶんにありゃあね。普段は無理さ。疲れちまう」

「へえ。初めて知ったや。そういや、おはるさんって、あの森に住んでんだよな?」

「いいや。あたいは森の奥の洞窟に住んでたさ」

「そうなのか。ピクシーってあまり見かけないから、質問ばかりしてわりぃな」

「そりゃあ自分よりデカいやつらがいっぱいいたら隠れて過ごすもんだからね」

 話しつつ夕飯の支度を進める。

 夏樹は卵をレンジでチンするようなやつだが、茹でたじゃがいもを潰すだけなら任せられそうだ。

「おれ、料理に参加できて楽しいや。いつもなら、小焼にキッチンからつまみ出されるんだ」

「あの小焼って兄さんとあんたはどういう関係だい?」

「幼馴染で、親友だ。小焼は仏頂面で怖く見えっけど、本当は優しいんだぞ。あと、甘いものが大好きで食いしん坊だ」

「ほーん。可愛く思えちまうね」

「それだけ聞いて本人を見たらビビるってパターンが多いな!」

 甘いものが大好きな食いしん坊だから、可愛い神父かと思いきや、筋骨隆々のカタギとは思えない目の鋭さをした神父が出てきたら誰でもビビるさね。……まあ、あの兄さん、顔はかなり綺麗に整ってたようだけど。

「そういえば、ピクシーって何食べるんだ?」

「あたいはりんごが好きさ」

「まさかりんごだけ食べてないよな?」

「当たり前さね! けっこう色々食べられるからあんたは気にしなくて良いよ。自分のものは自分で用意するさ。ついでに、あんたの分もね」

「おれの分も用意してくれるのか! 助かるよ!」

「あんたがどうしようもないほど壊滅的に料理スキルが無いように見えたからさ。その代わり、魔法薬は貰うからね!」

「おう! 任せてくれ!」

 夏樹はご機嫌に鼻歌なんて奏で始めた。今やってることはじゃがいもを潰すだけだが、楽しそうで良かったよ。ガキがやるようなことを大のおとなにやらせてるわけだからね。

 夏樹にはあたいが渡したものを混ぜ合わせてもらっておいて、あたいはケチャップポークソテーを作り、余っていた野菜でピクルスを仕込んだ。中途半端に余った根菜とトマトを使って、トマトスープも作った。具沢山で、余り食材様々さね。

「おれがじゃがいもと戦ってる間にこんなに作れるのか! すごいな!」

「まぁね。あたいはこういうこともできるのさ。ちょうど、魔力も限界さ」

 ポムッと音を立てて、体が小さくなった。

 夏樹の肩に座り、指示を出しつつ、キッチンを見回す。

 料理は完成しているから、後は盛り付けるだけだ。

 あの神父の口に合うかは、わからないけどね。

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