第2話

「そんじゃ道案内してあげっから、あたいを肩に乗せてくんな」

「飛ぶの大変だもんな」

「まぁね。わかってるじゃないか! 見る目があるよあんた!」

「アイタタ、叩かないでくれぇ」

 あたいは、夏樹の肩に乗せてもらって、街への道案内をする。

 もしかしたら更に迷わせるかもしれないってのに、あたいをよく信頼してくれるもんだ。

「ねぇあんた、あたいがきちんと道案内するってよく信じられるね?」

「え? おれ、騙されてんのか?」

「いいや。きちんと街に向かってるさね。だけど、初めて会ったピクシーをよく信頼できるもんだと思ってね。あたいがあんたを魔物の巣に案内するかもしれなかったろ?」

「おー、そっか。全く考えてなかったや。おはるさんなら大丈夫って思ってた」

「なんだいそりゃあ」

 まあ、頼られてるなら悪い気はしないね。

 中には妖精種を捕まえて売ろうとする人間もいるってのに、この人は信用できそうだ。エクソシストってのも本当のようだし。

 木の向こうに灯りが見えてきた。

「教会だ! おれがよく教会に行きたいってわかったな?」

「それはたまたまさね」

「お陰で助かったよ! ありがとな!」

「どういたしまして」

 お礼を言われたらくすぐったくなっちまうよ。

 夏樹はあたいを肩に乗せたまま教会の大扉を開く。

 あたいは妖精種だから悪魔族じゃないけんど、ピクシーをつれて入るのは大丈夫なのかねぇ。一応姿を隠しておこうか。あたいは頭から四つ葉のクローバーを外す。

 教会の奥に進んだところで乾いた音が鳴り、あたいの頬を何かが掠っていった。

「ひっ! 何でいきなり撃つんだよ!」

「エクソシストのくせに何かに憑かれてるでしょう。……手応えがないから、外したか」

「怖いことすんな! あと、憑かれてねぇから! おはるさんは良いピクシーだ! ってあれ? 何処行った?」

「あたいなら、ここにいるさ……」

 あたいは四つ葉のクローバーを頭に乗せる。

 目の前には銃を持った神父がいる。物騒な神父だね。見えていないのに、あたいの頬を掠るほどの腕があるとは怖いよ。普通の人間は近距離でも上手く撃てないってのに、傭兵でもしてたんかねぇ。

 あたいの姿を確認しに神父が近付いて来る。目が血のように赤い。人間と異なる血が流れていそうだ。肌の色も褐色だから、ダークエルフでも血縁にいそうだね。

「ピクシーを飼い始めたんですか?」

「あたいは飼われてないよ!」

「……こんなに攻撃的なピクシーは初めて見ました」

 あたいを虫のように掴もうとするから、爪をガッて持ち上げてやった。こうやりゃ、爪を剥がれたら痛いし嫌だからすぐ手が離れる。

「久しぶりに森を歩いたら迷っちまってさ。おはるさんに助けてもらったんだ。あ、あと、人狼退治もしといたよ」

「ありがとうございます。周期的にそろそろ出ると思っていたんですよ」

 夏樹と神父は会話している。あたいは蚊帳の外だ。

 夏樹はこの神父に用があって森を抜けてきたわけだから、色々話さなきゃいけないこともあるんだろうけど、あたいは暇だ。姿を消して街でも見に行こうかとも思ったけんど、陽も沈んでいるし、開いてる店も少なそうだからやめた。勝手に離れたら面倒なことになりそうだし。

 そういえば、神父の名前を聞いてなかった。

「ねえあんた、名前は?」

「ピクシーなら教えても大丈夫ですか?」

「おう。大丈夫だ。おはるさんは悪用するような子じゃねぇよ」

「それなら……、私は小焼こやけ。この街の教会の責任者です。司祭ってやつですね。あと、夏樹のいる孤児院は私が副業で経営しています」

「へえ。小焼兄さんはエクソシストじゃないのかい? 腕が立つようだけど」

「私には悪魔憑きと精神病を見分けられませんよ。殴れば治るなら良いですが」

「はいはい。司祭様が暴力で解決すんなよ」

 なかなかの暴論に驚いちまったや。

 あたいよりも手が出るのが早そうなのに司祭をやってるって、すごい兄さんだ。射撃能力も高いし、腕っぷしも強そうだ。聖書の勉強より傭兵のほうが向いてそうさ。

「私は今から聖務日課があるので、夏樹は……いや、やっぱり良い」

「何だ?」

「夕飯の支度を頼もうかと思ったのですが……、ピクシーがいるなら大丈夫か?」

「夕飯の支度だな! 任せてくれよ! おはるさんもいるし!」

 うちの人は元気いっぱいだけど、小焼兄さんは納得していない顔をしている。

 あたいがいたらなんとかなるのかねぇ。

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