第4話
セイムニッカ? ってやつが終わったらしく、神父がキッチンに来て、不思議そうなものを見たかのような表情をしている。
何か不思議なものあったかねぇとあたいが考えていたら、神父は口を開いた。
「珍しく、キッチンを爆破しませんでしたね」
「おう! おはるさんが手伝ってくれたんだ! すっごいおっぱいだった! あいだだだ」
変なことを言い出したから夏樹の頬を引っ張ってやった。
けっこうもちもちしていてやわらかい頬だ。すべすべしてっけど、魔法薬作るぐらいだから、何かスキンケアでもしてんのかもね。
一応エクソシストなんだし、聖職者だってのに、神聖な教会で胸の大きさぐらいで騒ぐんじゃないってのさ。
神父の血のような赤い瞳と目が合う。背筋をゾワッと悪寒が滑り落ちた。この兄さん、やっぱりただものじゃない。ケンカ慣れしてそうだ。傭兵あがりで司祭やってんじゃないかって思っちまうよ。
「さすがにピクシーなだけあって、夏樹の扱いができるようですね」
「まっ、あたいにかかりゃ世話の焼ける男の扱いは朝飯前なのさ!」
「そうですか。……では、いただきましょうか」
神父が料理を皿に盛り付け、うちの人がテーブルに運ぶ。なんだかガキの手伝いじみてるよ。
料理を運び終わったら、各々、席に着く。あたいはテーブルの上に正座する。
夏樹の肩に乗ったままだと食べ物に手が届かない。まず、あたい用の皿も無い。
と思っていたら、目の前にちゃぶ台と湯呑み、茶碗、皿を置かれた。全てあたいサイズだ。
「教会ってのは、こんなのもあるのかい?」
「孤児院に渡すものもうちに寄贈されますので。これは、おままごとセットです。こんなところで役立つとは思いませんでした」
「おはるさんにピッタリサイズだな!」
「ピクシー用に良いですね。夏樹にやります。あとは好きにしてください」
「ありがとな!」
「どういたしまして」
夏樹にやるってことは、あたいが好きに使って良いってことだ。気前の良い兄さんで良かったよ。
お祈りをしてから、料理に手をつける。自分で言うのもなんだけど、美味しい。これなら文句も言われないはずさ。あたいを試してたんなら、合格間違いなしさね!
「これ美味いな! おはるさんすげぇや!」
「ふふんっ。もっと褒めても良いんだよ!」
「小焼もそう思うだろ?」
「そうですね。ケチャップの酸味を活かした素晴らしい味付けだと思います。これならレンジで卵を爆発させるような男の世話を任せられますね」
「……夏樹って普段の食事はどうしてんだい?」
「おれは孤児院にいるから、食堂で子ども達と同じ食事を貰えるんだ。だから、おれが作ることはない!」
「一応補足しておきますと、夏樹はキッチンを爆破したので出禁にしています」
「出禁にされるくらいに何したんだい?」
「えー、大したことしてねぇよ」
神父の顔を見る。黙って首を横に振られた。
爆破したって、どういう意味かさっぱりわからない。普通、料理は爆発しないのさ。
魔法薬を作れるくらいだから火の扱いには長けてると思うんだけどねえ。
「ねえ、魔法薬はあんたが作ってんだよね?」
「おう! ここにあんのは全部おれのお手製だ」
「そんなら、魔法薬を作るように料理すりゃ良いじゃないかい」
「それをしたから爆発してるんですよ」
……ああ、なるほど。妙に納得しちまったよ。
夏樹は笑いながら頬を掻いてる。森だと暗くてよく見えてなかったけんど、けっこう可愛い顔してんだね。
「ごちそうさまでした。美味しかったです」
「ん。口に合ったなら、あたいも嬉しいさ!」
「デザートを用意しますね。今朝、大量にりんごを頂いたので、グラッセにしましょうか」
「おっ! そんなにりんごがあるなら分けてくれよ。おはるさんが好きなんだ」
「好きなだけ持って行ってください」
「おう! ありがとな!」
夏樹はニッコニコしてるけど、あたいは妙に恥ずかしくなっちまうよ。
でも、りんごを貰えるのは嬉しい。今からグラッセも食べられるとあっちゃ最高さね。
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