第26話
孤児院に戻る頃にはお昼を過ぎていた。お腹空いたねぇなんて言いながら移動してたけんど、もうそんな時間だったらしい。朝から色んなところに行ってるから、時間の経過がよくわかんないよ。夏樹は聖務だってきちんと時間通りにやってないし。というか、時間通りでなくてもやってないようだし。
で、お昼を過ぎてるから小焼神父は食堂に行ってるようだ。子ども達もお昼ご飯を食べに行ってるから、早めに食べ終わって遊んでいる子しか外にいない。元気にボール遊びをしてっから見ててほっこりしちまうよ。
「あ! 夏樹先生避けて―!」
「えっ?!」
「危ないよ!」
夏樹の顔面に当たりそうだったボールをあたいが蹴り飛ばしてやる。予想外にぶっ飛んじまった。あたいもなかなかやれるねぇ。これなら、プロのサッカー選手にでもなれそうさ。
「ぼーっと歩いてんじゃないよ。あんた、急に魔物に襲われたらどうするんだい!?」
「そうは言ってもなぁ……。おれ、エクソシストだから、そんなに向こうから襲ってくることねぇんだよな……」
それもそうか。エクソシストってわかってて襲うような魔物は腕に自信があるワル中のワルだ。魔力も膨大で誰にも負けないって自信があっから襲うんだ。ちょっとイキッてるだけの魔物は若い聖職者を襲うもんだ。淫魔なら、聖職者を誑かせたら上位種族に自慢できるらしいし。……そういえば、あのサキュバス、上位種族だから聖職者を襲おうとして返り討ちにあったのかねぇ。
「それよりも、ありがとな。おはるさんの蹴りならプロのサッカー選手になれるよ」
「ほ、褒めてもプロにはならないからね!」
「あはは。でもなぁ、ちと蹴りが強すぎちまったかな。流れ弾に当たっちまった子がいるや……」
夏樹は頬を掻いて苦笑いをしていた。
視線の先には、エルフの女の子が泣いていた。どうやらあたいの蹴ったボールが当たっちまって転んだようだ。
「あたい、謝ってくるよ!」
「おう。おれは先に小焼に豆大福渡してくる。腹空かせたあいつは怖いからな。すぐに戻るから」
あたいは夏樹の肩から下りて、泣いている女の子の側まで飛ぶ。人間サイズなら歩いて数秒だろうが、あたいのサイズだと飛ぶのでもけっこう時間がかかる。
「ごめんね。痛かっただろ」
「うわぁあああん!」
「ごめんごめん。今、先生が来てくれるから、待っててくんな」
先に手当てをさせてから行かせたら良かったもんだ。何で先に神父の方に――って思ったけんど、あっちはあっちで説教が長引かないようにしてんだ。
とりあえず、あたいも治癒魔法はできるもんだから、やってみようかねぇ。夏樹に薬を塗らせたほうが早いかもしれないが、あたいもできるってところを見せておきたいし。
赤くなった膝小僧に両手をかざす。
「ヒール!」
ぽわあぁ……と光が舞い上がる。赤みが引いていく。よし、あたいもけっこうやれるもんだ! ボール遊びをしていた子どもらも喜んで見ている。泣いていたエルフの女の子も笑顔になった。
「ふぅ、ざっとこんなもんだね! 悪かったね! まだ痛むかい?」
「ううん。だいじょうぶ! ありがとう!」
「どういたしまして。っつっても、あたいが悪いんだけどね!」
にぱぁっと笑うとエルフの女の子はボール遊びをしていたオークの男の子と竜族の男の子に「いっしょにあそんでいい?」と尋ねて、仲間入りしていた。平和で良いねぇ。こういう異種間交流できる場所があるだけ良いもんだ。どちらかというと、あたいは喧嘩してるところを見たいんだけどね。あーあ、血沸き肉躍る激しいバトルは無いもんか。
「あり? 治ったのか? エルフでも来てくれたか?」
「いいや。あたいが治したのさ!」
「おはるさんって治癒魔法使えるんだな。よし、そんじゃ、昼飯食べに行くか」
というわけで、夏樹と食堂に向かうことになった。お昼は何か楽しみさね。
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