第25話

 水饅頭を買うために孤児院を出て、街に向かう。辺鄙なところに建ってるもんだから、近くに店もありゃしない。一番近い店までも徒歩だと一時間は絶対にかかりそうだ。

「ねえ夏樹。どうしてこんなところに孤児院なんてあるんだい? 村の近くにでも建てりゃ良いってのに」

「さぁなぁ。一応、小焼が副業としてやってるもんだから、小焼に聞いたらわかるかもよ」

「あの兄さんに聞いたところで、意味なんて無さそうだよ。土地代が安いだとかそういうのじゃないのかい?」

「あはは、小焼ならそう言いそうなところもあっから否定もできねぇな。うーん……。おれが思うに、多種族を預かってっし、変な人間が来ないためじゃねぇか? エルフ族の子って高値で売れるんだろ?」

「あたいが知ってるわけないだろ!」

「それもそっか!」

 あっけらかんと笑ってるけど、言ってることはけっこう怖いってもんだ。確かにエルフ族の子は高値で売れるだとか聞いたことがあるような気もする。人魚のほうが高値だったようなイメージもあるんだけど、あたいにゃどうでも良い話だ。妖精種も愛玩だとかで飼うやつもいるし、狂った世の中さね。

 今じゃどの種族も仲良く平和に認め合って生きましょうって雰囲気だけど、昔は殺し合いもありゃ、それこそブラックマーケットで人身売買もやってたもんだ。奴隷として売られるオークも多かったとかね。オークといえば、エルフを犯す漫画が昔流行ってたもんだ。エルフ族がこぞって買ってたのを見たことがある。

 で、水饅頭が売ってそうなコンビニについた。成人指定の本は立ち読みできないようになってっけど、表紙が胸のデカい女だったから、夏樹が一瞬立ち止まっていた。

「買いたいなら買えば良いんじゃないかい?」

「いやあ、さすがにこれ買って帰ると小焼に叱られるよ」

「その前に、制服のまま買って大丈夫なのかい?」

「おっ、それもそうだな。このまま買ったほうが叱られるか」

「というか、あんた、胸のデカいのが好きなのかい?」

「おう! おっぱいがボインボインしてるのは大好きだな!」

「……あんまり大きな声で言わないでくんなよ」

 あたいのほうが恥ずかしくなっちまう。夏樹は恥ずかしいと思わないのか、人懐こい笑みを浮かべていた。

 おっぱいがボインボインはどうでもよくて、あたい達が必要なのは、水饅頭だ。和菓子売り場を見るも、それらしきものはない。常温ではなくて、冷蔵商品かと思ってケーキの横を見ても何もない。

 このままじゃおつかいもできずに神父に叱られてしまう。あたいとしては叱られても良いと思うんだが、夏樹がしょげるのを見るのも嫌だ。

「すみませーん。水饅頭ってありませんか?」

「あー……、今日の分は売り切れてますねぇ。すみません」

 ドワーフの店員は申し訳なさそうに頭を下げる。売り切れなら仕方ない。だからって手ぶらで帰るのもどうだろうか。

「売り切れかぁ。どうすっかなぁ」

「他に店は無いのかい?」

「あるにはあるけど、ギルドの近くまで行かなきゃいけねぇから、帰りが遅くなっちまうし、あんまり小焼を待たせると更に機嫌が悪くなる。あと、あいつ、夕方には自分の教会に戻るはずだしな」

「ほーん。それなら、あの神父が好きなものでもあげたらどうだい? 何かあるだろうに」

「小焼は豆大福が好きなんだ。昔はよく食べ歩きしてたよ」

「豆大福の食べ歩きをかい?」

「おう。店によって豆のふっくら具合だとか餡子の甘味がどうのって言ってた。とりあえず、この豆大福買い占めていくか。いっぱいあげたら機嫌もなおるだろ」

「あんたねぇ……」

「なぁおはるさん。あの雑誌さ、おれの代わりに買ってくれたりとか――」

「しないよ」

「だよなぁ!」

 夏樹はそう言いつつも、おっぱいがボインボインの雑誌を手に取っていた。けっきょく買って帰るんだね。豆大福と一緒に買うの面白すぎないかい?

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