第24話

 孤児院では自由気ままに子ども達が勉強したり遊んだりしてる。一応、学校のように決まった時間で勉強してるような気もするんだけんど、どうなってんだかわからない。チャイムが鳴るわけでもないから、感覚で勉強してんのかねぇ。

 夏樹の説明もけっこう大雑把だ。これでも責任者だと思うんだけど、この人がのびのびやってるから、子ども達ものびのびしてんのかもしれない。

 他の職員はきっちり真面目にやってるように見えるから、あたいはもう何がなんだかわかんない。とりあえず、掃除だけは手伝ってやったほうが良さそうだ。ごちゃごちゃになってる物置もあるし、整頓されていない棚も多い。妖精種の子どもが一生懸命に片付けようとしているから、あたいも手伝った。種族的なもんで、精霊や妖精は片付いてないと気になるんだ。ハイエルフになってくると性格が関係しちまうようだけど、ちっこい体の種族は気になっちまうのさ。

 立ち寄る部屋で整理整頓をしつつ、孤児院の案内についていく。サキュバスは興味無さそうな顔してるけど、夏樹は楽しそうだ。モノを教えるって行為が好きだから、相手が聞いてなくても関係無いのかもしれない。

 お昼前には聖堂へ入った。孤児院でも立派な聖堂があるもんだ。街の教会の聖堂に比べたら質素だと思うけんど、こっちはこっちで味がある。

 祭壇の前には神父がいた。昼の祈りを捧げているところだと思う。

「夏樹様は祈らなくてええの?」

「あ、やっべ!」

 やっべ! じゃないんだよ! あんたも聖職者だろ!

 サキュバスに気付かされるってどうなんだか。

 夏樹の頬を引っ張って仕置きをしておく。あたいが先に躾をしてやれば、神父のお叱りも少なくなるはずさ。隣に来た夏樹を見て嘲笑うような目をしていた。燃えるような赤い瞳だってのに、ぞっとするくらい冷たいよ。こわいこわい。

 昼の聖務が終わったので、ひとやすみ。

「ひぃ、怒られなくて助かったよ」

「助かったとか言ってんじゃないよ。しっかりしな!」

「いだだっ!」

 夏樹の頬に拳をめり込ませておく。

 サキュバスは神父に近寄って、腕にくっついていた。胸を腕にくっつけて、明らかに誘惑してる。魅了チャームを使ってるのはわかるんだけど、効いてなさそうだ。魔力が足りないとかそういうのではなく、本当に耐性があるんだ、あの神父。

 なんとなく恐ろしい気配がしたので、あたいは頭の上の四つ葉を取る。夏樹が「あれ、おはるさん何で消えてんだ?」と気の抜けた声を出している間に、神父がこっちに歩いてきた。

「……水饅頭が食べたいですね。夏樹、どうせお前が私の名前を教えたんでしょう。買ってこい」

「わりぃわりぃ。てっきり知ってるもんだと思ってさぁ。アイダダダダ! おはるさん、痛いってぇ!」

 サキュバスは名前を呼んで誘惑してたようだ。つまり、夏樹が教えちまったことがバレたわけで、お叱りの拳が飛んでくる前にあたいが先に夏樹をボコボコにしてやることにした。

「ああ、いつものピクシー連れてるんですね」

 神父の手が伸びてくる。夏樹へのお仕置きはこれぐらいで良いから止めようとしてるのかもしんないけど、見えないからってあたいの胸を触って良いもんじゃないのさ。

 指を掴んで捻ってやったら眉間に皺を寄せていた。

「おまえ、サキュバスは見えるのにピクシーは見えねぇんだな?」

「あれが見えるだけで、他にサキュバスを見たことないですよ」

「えー? おまえの母ちゃんーー」

「夏樹」

「……おう。水饅頭買ってきたら良いんだろ? 行ってくるよ」

 夏樹の言葉は神父のドスのきいた声で止まる。

 水饅頭を買いに行くように言われたので、夏樹は踵を返して歩き始めた。サキュバスのことは神父に任せておけば大丈夫だね。

「あのサキュバス、素直で良い子っぽいな。小焼の言うことをよく聞いてるようだし」

「怖いだけじゃないかい? 野良サキュバスだから祓われちまうんだろ?」

 それだけでも無さそうな気もするから、後でゆっくり見とくかねぇ。

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