第27話
食堂でお昼を受け取る。ピクシーサイズの食器もあるなんて、きっちりしている孤児院だと思ったけんど、これ、おままごとセットだね……。夏樹が渡してくれたのかねぇ。でも部屋にあったような? それなら、神父が新たに持ってきた? まっ、どっちでも良いさ。
そういえば、ピクシー種の子どもは孤児院にいるのかねぇ。辺りを見回してみても、そんな子は見つからない。もう食べ終わって遊びに行ってるのかもしれないが、いないのかもしれない。どっちでもいいけんど。
今日の献立は、ごはん、ツナじゃが、枝豆サラダ、すまし汁、フルーツ寒天、牛乳。
こりゃあ、栄養バランスをしっかり考えた食事だ。まさに給食って言えるもんだ。
「おはるさん用のテーブル持って来るから」
「わるいねぇ」
夏樹は自分の昼飯をテーブルに置いてから、あたい用にミニテーブルを持ってきてくれた。テーブルの上にテーブルを置いてってよくわかんない感じになっちまってるけど、仕方ない。人間のイスに座ったらあたいは食事にさえも手が届かなくなっちまう。だからってわざわざ人間サイズになるのも魔力の無駄遣いになっちまう。夏樹の魔法薬を貰えば簡単に大きくなれるけんど、それだと魔法薬の無駄遣いさ。
さて、とっくに食堂は静かなもんだ。あたいと夏樹ぐらいしかいない。
夏樹は手を合わせて「いただきます」と言った後、箸を持った。……あれ? あたいが思ってるのと何か違う気がするね?
「ちょいと待ちなよ。あんた、食前の祈りはしないのかい?」
「あー、あれな。それよりも簡単に短く済むから『いただきます』で十分だと思うんだよ。だって、この言葉に全ての想いが込められてんだぞ!」
「そうだね……」
夏樹はドヤァと言いたそうな自信満々の表情をしている。親に褒めてもらいたい子どものような表情をしてるから少しだけ可愛いと思っちまったよ。元から可愛い顔してる人だとは思うんだけどね。
普通に食事を始めたらから、あたいも手を合わせて「いただきます」をしてから箸を持った。
まずは、ツナじゃがをぱくり。ほくほくのじゃがいもにツナと煮汁の旨味がしみ込んでいていて美味しい。くったりするまで煮込まれた玉ねぎからも甘味が出てるんだ。味付け自体はツナ缶でほとんど終わってるんだろうけど、少し調味料を足すことで、しっかり仕上げている雰囲気がする。味を調えると書いて調味料だからね。この食堂の調理員は良い仕事をしているよ。
ごはんもつやつやで米粒ひとつひとつが立っているぐらいには美味しいさ。噛むほどにごはんの甘さを感じられるから良い農家から仕入れているんだね。
枝豆サラダはドレッシングをかけたシンプルなものだけど、これぐらいシンプルであっさりしていて良いと思うのさ。他のもので時間をかけて作るなら、一品ぐらい楽したくなるってもんさ。あたいならもっと楽すると思うね。そんでも、ただの枝豆サラダじゃないよ。ハムも入っているしコーンも入ってる。ミックスベジタブルってやつかもしれないけんど、料理名は枝豆サラダなんだ。もしかして、枝豆のストックが切れて、冷凍のミックスベジタブルを使ったんじゃないだろうね? それはそれで良い機転だと思うよ!
すまし汁は出汁の風味がしっかりしていた。昆布とカツオの合わせ出汁だね。黄金色の出汁を取るのはなかなか難しいってのによくできてるもんさ。良いねぇ。美味しいごはんが食べられるなら、孤児でなくともここに入りたくなりそうなもんだよ。
「そういえば、ここって地域の子が食べに来ることはあるのかい?」
「おっ? あー、そういうのもやってると思うぞ。と言っても、ここは街外れだからさ、小焼の教会でやってんじゃねぇかな。あいつ、料理上手だし」
「料理をふるまう時間があの神父にあるようには見えないけどね……」
「それもそうだな。教会で育てたマンドラゴラの販売はしてるみてぇだけど」
「マンドラゴラは売りつけてくるんだよね……」
「おう。その売り上げで教会の維持してっからさ」
常に聖務日課を真面目にこなしてそうだから、料理を配る時間は無いと思うもんだけど……慈善事業としてやってそうだとは思うけんど、あの神父に時間があるのかはわかんないから、周りの人がやってそうだね。
……マンドラゴラは趣味で栽培してるのを売ってるだけだけんど。
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