第28話

 午後の業務は何かと思えば、薬品調合をするらしい。

 夏樹はエクソシストだけんど、魔法薬師としての仕事のほうが得意だとか言っていた。

 神父の相手はしなくて良いのかと思いきや、もう帰ったと言っていた。そういえば、さっきバイクの音が聞こえてたね。しかも走り屋の音だ。あの神父、走り屋なのかもしれないね……。どこまでスピードが出るか試してそうなツラをしていたよ。機会がありゃ、あたいも乗ってみたいもんだ。

「さて、おはるさんって魔法薬作れっか?」

「あたいが作れるのはピクシーの風邪薬ぐらいだよ。そういうのは妹が得意なのさ」

「妹いんの?」

「いるさ。あたいより器量が良くて気立ての良い子でね。いつか夏樹にも会わせてあげるよ」

「へぇ。おはるさんの妹ならおっぱいおっきいのかな」

「あんたねぇ」

 叱るのも面倒になってきたよ。無意識に言ってるようだし、今回は殴らないでおいてあげるか。他に人がいる場所ならまだしも今は二人っきりだし。

 夏樹は思ったことがすぐに口に出ちまうくらいに素直だ。素直だからこそ、少し注意しておいてやんないと、ろくなことにならないと思うよ。変に喧嘩を売っちまいそうだもの。喧嘩を売ったら売ったで激しいバトルが見れるなら、あたいは嬉しいところなんだが、今んとこ平和過ぎてあくびが出ちまうくらいさ。

 ついていく相手を間違えちまったかねぇ……。神父の側にいたほうが血沸き肉躍る激しいバトルを見れたか? でも、この人を放っておくのもなんだか可哀想というか……。かまいたくなっちまう。

 熱心に魔導書でも読んでるのかと思いきや、さっき買ってた雑誌を開いてた。……巨乳のオーク娘を見てるね。

「夏樹って、巨乳なら何でも良いのかい?」

「へっ? いや、乳だけじゃなくて顔も見てるし尻も脚も見るからな」

「そういうこと聞いてんじゃないんだよ。種族的な問題さ。人間だとエルフ族を好きなやつが多いんだろ? オークでも良いのかって話さ」

「でっかいおっぱいだなぁって思ってたけど?」

「やっぱり胸しか見てないんじゃないかい」

「そんなことないって! おれはどんな子でも悪いとも嫌いとも思わねぇよ。誰かの推しを悪く言うのは駄目だぞ」

「良いこと言ってるつもりだけど、巨乳雑誌持ったまま言うもんじゃないのさ」

 あきれて何を言えば良いかわかんなくなっちまったよ。でも、夏樹の考えはとても良いものだと思う。あたいの嫌いなものが誰かの推しの可能性もあるから悪くばっか言えないさね。あたいだけなら良いけんど、あたいの好きなものまで嫌われちまう可能性もあるし。あたいを嫌うだけならマシなもんさ。二次被害だけは避けたいもんだよ。

 至極真面目な顔で巨乳雑誌を捲ってんだけど、この人、業務中だよね?

「魔法薬作るんじゃないのかい?」

「ん。作る。……この雑誌、モデル募集してっから、おはるさん応募し痛い痛い痛い!」

「嫌だよ!」

 何であたいが見ず知らずの人らのために露出しなきゃなんないんだい! 夏樹の頬に蹴りを入れて、抓っておいた。

 ようやく魔法薬を作るようだから、あたいは近くの棚に腰掛ける。あたいが手伝うような作業ではないはずさ。何が何処にあるのかさえもよくわかんない工房だから、見守るのが一番良い。

「そういえば、ギルドで新たに受注しないのかい? モンスター退治しないのかい?」

「おはるさんって好戦的だなぁ。そこまで困ってないものは冒険者に任せておいたほうが良いんだ。それよりも対処しなきゃいけねぇのは、もっと上級の悪魔だとかドラゴンだとかだな。緊急性の高いものは連絡が入るから」

「あんた、実はけっこうすごいエクソシストなのかい?」

「ちょっとだけすごいエクソシストだ! あいただっ! 何で蹴るんだよ!」

「なんか、イラっとしたからさ」

 ドヤァと言いたそうな顔をしていて妙に腹が立ったので飛び蹴りを食らわせておいた。まあ、すごいんだろうね、きっと。

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