第38話

 あたいらはお誕生日会とやらに参加しないらしく、引き続き花壇のお手入れさ。まあ、あたいのようなピクシー族や妖精種は自然の世話をさせるのが正解だとは思うから、文句は言わないさね。夏樹だって、自然関係の魔法が向いているらしいから、植物の世話をしておけば良いこともあるさ。

 さすがに孤児院にはマンドラゴラは植えてないようだ。引き抜いたら鼓膜がやられちまうくらいには騒ぐもんだから、子どもがイタズラで引き抜いたら大変さ。弱い子なんてすぐにおっんじまうもんだよ。

 色とりどりの花が並んでて、見ていて和むもんだよ。ちょっとそこまで歩いたら森だから自然がいっぱいの辺鄙なところだけれど、花は少ないから、こういうのは癒し要素だね。花の咲く木も多くあるもんだけど、今の時期は青い葉っぱが生い茂っているだけさ。

「ねえ夏樹。どうしてあたいらはお誕生日会に参加しないんだい?」

「小焼がいるからおれが参加する必要が無いってのもあっけど、一緒に歌ったら五月蠅いからってんで、出禁食らったんだ」

「五月蠅いから出禁ってどういうことさね」

「お誕生日会ってさ、色々と歌うんだよ。誕生日を祝う歌はもちろんあるし、聖歌も歌うし、子ども達は大声で歌うわけだ。おれも負けじと対抗して大声で歌った。そしたら、小焼に『耳が痛いからお前はもう二度と参加するな』ってさ」

「あんた……。どれだけ騒いだのさ……」

「さぁなぁ。おれもそこまで騒いだつもりじゃないんだ。ちょっとヒートアップしてさぁ。向こうもなかなか大きな声で歌うから、こう、必死になって。歌い終わった時は汗だくになってたな! 歌って楽しいな!」

「うん……。あんた……、吟遊詩人にでもジョブチェンジしてみないかい……?」

「吟遊詩人って、あれだろ? あの、なんか、ぽろろんって弾いてるやつ」

「あんたの言ってるのがハープだとしたら、きちんと覚えておいたほうが良いよ」

「おれ、ハープ弾けねぇから無理だなぁ!」

 大声で歌う吟遊詩人を見たことがないけれど、それだけ歌うのが好きなら、エクソシストよりも向いていそうな気がするんだ。

 だけど、音程ってのを考えてなかったね。歌魔法は高度だから、節一つ音程一つ間違えただけで術が破綻しちまう。

「せっかくだし、今歌ってくんなよ。歌いながら草弄りしちゃ駄目だとは言われてないんだろ?」

「言われてないけど、ちょっと恥ずかしいなぁ」

「あたいは夏樹の歌を聴いてみたいんだけどねぇ」

「そっか。おはるさんが聴きたいって言うなら、歌うか。一週間前に教会で小焼に殴られた時の気持ちを歌う。聞いてくれ『豆大福十三個』」

 あたいもまさかのオリジナルソングが来るとはおもわなかったよ!? しょっちゅう神父に殴られてるのがよくわかるね!

 ――で、夏樹の歌についてだけど、下手ではないさ。感情がこもってて、表現力が豊かだと思う。エアギターだったからわかんないけど、もしかしたら、本当にギターで弾き語りをしてるのかもしれないね。あと、歌ってる間、全くと言っていいほど、作業が進んでなかった。歌に夢中で駄目だった。あたいも手を止めちまったくらいさ。

 夏樹はよく通る声をしてるから、大きい声を出さなくても耳によく届く。だから、これで大声で熱唱でもされちゃあ、神父もたまったもんじゃないさ。

「下手ではないんだね」

「ありがとな。いやあ、久しぶりに歌った。やっぱり歌って楽しいな!」

「楽しいなら良いけど、この声、神父にまで聞こえてないか心配になっちまったよ。あたいら、全く作業してないじゃないか」

「大丈夫。今、向こうは向こうで子ども達の熱唱を聞いている時間だからな。おれらの声なんて聞こえねぇよ。まあ、聞こえてたとしても、おれが殴られるだけだからさ! あはは!」

「笑いごとじゃないと思うんだけどねぇ」

 夏樹は笑いながら後ろ頭を掻いていた。

 殴られても平気そうにしているから、力の流し方が上手いんだと思うけんど、あんまり殴られても大変だろうね。あの神父、力加減できないような気がするし。あたいにも殴られてたら体がもたなくなっちまいそうだ。

 あたいも夏樹の頬に蹴り入れたり抓ったりするのを控えてやったほうが良いかもねぇ。でも、すぐに巨乳に目がいくような人だから、反感を買わないようにしてやんないといけないから難しいもんさ。

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