第14話

 草むらから飛び出して来たのは、ドラゴンの子どもだった。親とはぐれちまった様子だ。ドラゴンがいたらさすがに妖精達も隠れるもんだね。子どもとはいえ、力はずぅっと強いもんだ。

「こんなところにドラゴンなんているんだな?」

「親とはぐれちまったんだよ。何とかしてやらなきゃ森の妖精達も困るよ」

「とりあえず、連れてくか」

 夏樹はドラゴンを抱える。見た目によらずけっこう力持ちのようだ。おおきなぬいぐるみを抱えているようにも見えて可愛い。

 素材は夏樹のポーチに全て詰め込まれてるから、意外と大容量なのか何らかの魔法で空間を繋いでるのかもしれない。あたいがポーチの中を見ていないからわからない。

 ドラゴンを抱えて森の中を進んでいると、妖精が木の影から顔を出した。

「夏樹ちょいと待ってくんな! あたいの着替えを貰いたいんだ」

「おう! えっと、いくら必要だ?」

「金は良いから、さっきのウロコをおくれ」

 夏樹から魚人のウロコを受け取って、あたいは妖精に物々交換を申し出た。

 ウロコを見た妖精はかなり喜んで大量の衣類を持ってきてくれた。

 このウロコ、すごいんだね……。あたいにゃ価値がわからなかったけど、妖精は服飾店の子だったらしく、ウロコで新しい服を作ると言っていたし、あたいの分も作ると言っていた。物々交換になってんのかわかんないけど、やる気満々の妖精はそっとしておくのが一番さ。

 服を抱えて戻る。夏樹は少し驚いた様子だった。

「いっぱい貰ったんだな」

「あのウロコ、かなり良いものだったようだよ。大喜びしてくれたさ」

「とりあえず抱えとくの大変だろ? 預かっとくよ」

「ありがとね」

 夏樹はポーチにあたいの服を入れた。ポーチの中はやっぱり空間魔法がかかっているようだ。維持するの大変だから、夏樹は思ったよりも魔力を秘めてる人間なのかもしれない。あの神父ほどないが、そこらへんの人間よりは魔力があるし、魔法も使えるから才能もあるはずだ。

 さて、ドラゴンはおとなしく夏樹に抱えられていた。普通なら暴れるもんなんだけど、寝ているくらいだ。どうなってんだかねぇ。

「ねえ夏樹、ドラゴンに何かしたかい?」

「ドラゴンには何もしてねぇけど……、おれは香り付けした」

「香り付けって何さ?」

「香りで悪魔を祓うこともあるからさ、香料も持ち歩いてんだ。そんで、ドラゴンが安心する香りもわかるから、それ付けたんだけど、こんなに安心して寝てくれるとは思わなかったよ」

「あんたって、けっこうすごいよね……」

「あはは、そうでもねぇよ。このドラゴンをどうすっか悩んでるくらいだ」

「親を見つけてあげないといけないねぇ」

 じゅうぶん誇っても良いぐらいすごいんだけど、そこで威張らないのがこの人の良いところって感じがするね。

 森を抜けて、ギルドに向かって歩いていく。通りすがりの人にドラゴンを飼ってると勘違いされていた。そりゃまあ犬を抱えるようにドラゴンを抱えてたらそう思われるもんさ。

 いっそ孤児院で飼えば良いとも思っちまったけど、親が襲ってきたらまずいことになるから、早く親を見つけて返してあげないと大変なことになる。

「おっ、あれって……」

「何か見つけたかい?」

「今、あの屋根のところにサキュバスがいたんだ。おはるさん見てきてくんねぇか? 野良じゃないサキュバスなら、身分証持ってるはずだから、見せてもらってくれ」

 夏樹がサキュバスを見たって言うから、近くの家の屋根まで飛ぶ。屋根の上には日向ぼっこをしているサキュバスがいた。

「ねえあんた、身分証見せてくんな!」

「はーい。うちは駅前のリラクゼーションサロンで働いてるなの」

「ご協力ありがとね」

 きちんと身分証を持ってて健全に働いてるサキュバスだった。牛乳泥棒のサキュバスとは関係無さそうだね。

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