第15話

「どうだった? って、見てりゃわかるか。野良なら身分証の提示を求めただけで逃げるもんな」

「駅前で働いてるって教えてくれたさ。はい、これ」

「おっ。店の名刺くれたんだな。しっかりしてるサキュバスだなぁ。えーっと、メイちゃんってのか、可愛い子だな」

「あんたねぇ……」

 夏樹はサキュバスの名刺を見てニコニコしていた。

 ピンク色の髪に紫色の瞳で胸が大きめのサキュバスだった。サキュバスにも個体差があるから、胸の大きさもそれぞれ違うんだが、あの子はけっこう大きめだったような気がする。搾り取ってる精力の質が良いのか肌艶も良さそうだったし、健康的で良いね。

「サキュバスの嬢がいるなら、スタッフもレベルが高そうだなぁ」

「行くのかい?」

「おれ、一応聖職者だぞ?」

「聖務日課ってのやってないのによく言うね」

「……ま、まあ、そういうのは教会にいる小焼神父がやっからさ。な?」

「はいはい。同意を求めないでくんな」

 聖職者にも色々あるってのがわかったよ。

 ギルドへ向かう道中で、夏樹は色々話してくれた。あの神父は夏樹の上司にあたる位で、夏樹は部下というものになるらしい。だから色々恵んでくれてんだね。そう考えたら、けっこう良い上司だと思うよ。あたいに夏樹の世話を頼んでくるくらいには、良い上司さ。見え隠れする確かな強い魔力が気になるけれど、あれはダークエルフだからってことなんだろうね。純血種よりも強い魔力を秘めてるってどういうことなんだか。

 ギルドに着いて、夏樹はすぐに納品処理をしていた。ドラゴンを抱っこしたまんまだ。他の利用者にガン見されてるってのに、この人は全く気にしていない様子だった。見られていることにすら気付いていない可能性ってのはないかって思っちまうよ。

「さっすがお兄ちゃん! 仕事が早いね。これで魔女さんも助かるよ。報酬はこれね。領収書にサインよろしく!」

「あいあい。ギルドで迷子の保護ってしてくんねぇか? この子、森にいたんだ」

「親ドラゴン捜索でも発注する? お兄ちゃん、報酬出せる?」

「……いや、やっぱ良い」

 どうやらギルドでは預かってもらえないらしい。

 仕方がないので、そのままギルドを出て、辺りを捜索することにした。子どもドラゴンの魔力に近しい気配がするから、そっちに向かえば親がいるかもしれないけんど……、下手したら戦闘になっちまう。どう見ても夏樹は戦闘向けじゃない。でも、エクソシストだし……、人狼も一発で仕留めるような薬を持っているくらいだし……。あたいとしては、激しいバトルを見たいわけで……。

「うーん、どうすっかなぁ」

「あたいに任せな! 探し物の魔法は得意なのさ!」

「おお、そっか! そんじゃ、サキュバスを探してくれ」

「え? ドラゴンじゃないのかい?」

「ドラゴンは連れてるだけで、向こうから飛んでくると思うんだ。だから、サキュバスを探してくれ」

「わかったよ。でも、サキュバスに関係するものがないと、いくらあたいでも……」

「さっき、サキュバスから名刺貰ったよな。とりあえず、サキュバスが何処にいるかだけわかれば、後は足使って見回れば良い。店には嬢しかいないから、外にいるやつを見つけよう」

「じゃあ、やってみるよ」

 夏樹から名刺を受け取って、あたいは地面に置く。魔法陣を書いて、その上に三つ葉のクローバーを置く。

「ひとは、ふたは、みつば、よつば、はるにきたり」

「おっ、初めて聞く詠唱だ」

 魔法陣に置いた葉が浮き上がる。これで場所を示してくれる。

 間違えて四つ葉を千切りそうになったから危なかった。この人にあたいが見えなくなったら誘導するのが面倒になっちまうところだ。

「そんじゃ、あの葉っぱを追いかけていくよ!」

「よし、行くか!」

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