第17話
「ご指名ありがとうございますなのー。うち、メイって言うなの!」
「お、おー……。いや、指名って言うか、話を聞きたくてさ」
ピンク髪をハーフアップツインに結った紫目のサキュバスが出てきた。名刺をくれた子だから、ここにいるサキュバスはこの子だけってことか他の子は接客中で手が空いてる子がこの子だけだったかのどっちかだと思う。
胸がぽよんっと揺れてるから、夏樹の視線は明らかにそっちに行ってて、サキュバスの顔すら見ていない。
「夏樹。仕事忘れんじゃないよ。胸を見に来たんじゃないんだからね」
「わ、わかってるって! おれ、今、きちんと話を聞きたいって言ったろ」
「言ってたけど、視線が胸にいってんのさ」
「あ! 街で会ったピクシーさんなの! ご主人様にうちを紹介してくれたなの? 嬉しいなの! 握手あくしゅー!」
「こいつはご主人様ってもんじゃないよ。握手はするけどね」
手をきゅっと摘ままれたので、握り返しておく。えらく友好的だけど、これはサキュバス族の特徴だから、気にするようなもんじゃない。
それよりも、聞き込み調査をするのさ。
「最近、牛乳泥棒をしてるサキュバスがいるんだけど、あんた何か知らないか?」
「うちは知らないなの。ただ、牛乳泥棒するってことは、それだけひもじい状態ってことなの。精力の有り余った男を見つけたらホイホイされると思うなの」
「へえ、そういうもんなんだねぇ」
「うちらサキュバスは、人間の男の精液を搾り取って、人間の女を孕ませて、種族を反映させてるなの。その時に生きる糧として精力を貰ってるなの。魔力も一緒に貰ってるなの。エネルギー充電してるなの!」
「へー。サキュバスってそういう暮らしをしてるんだねぇ」
「で、それは今の時代、街で共生していく中では迷惑行為になっから、そういうことしてると退治されるんだ。街じゃなくて田舎のほうだとここまで厳しくないはずなんだけどな」
よくわかんないけど、種の個性を残しつつ共生するのは大変って理解しておけば良いか。あたいにゃ何言ってんのかわかんないね。
「同族なら助けてあげたいなの。うちのサロンはスタッフ募集中だから、面接に来てほしいなの。サキュバスの嬢は人気者になれるなの。見つけたら、退治する前に伝えておいてほしいなの」
「わかったよ」
あんまり有力な情報ではないような気がするんだけど、聞き込みはこれで切り上げるようだ。帰り際にサキュバスに「次はお客さんで来てなの」と言われて、夏樹はへにゃっと笑ってたから頬を引っ叩いておいた。デレデレしてんじゃないよもう。
もう孤児院に帰るのかと思えば、教会に向かうようだ。
そういえば、神父はサキュバスについて調査してほしいって言ってたんだったっけ。それの報告かねぇ。
「小焼ー。いるかー?」
「いないほうがおかしいと思いますが。何ですか? 車を壊した詫びにでも?」
「あ、あー、それは悪かったよ。ごめん! サキュバスについての情報が入ったから、伝えに来たんだ」
夏樹はさっきサキュバスに聞いたことを簡潔にまとめて神父に伝えていた。
「なるほど。つまり、腹ペコサキュバスは精力が有り余っている男の寝床に現れる、ということで良いですか?」
「おう。サキュバスから聞いた話だから間違いないはずだ。これ、名刺渡しておくよ」
「……なかなか可愛いですね」
「そうだろ? おれもそう思った!」
「ですが、私はもう少しふとももがむちむちしているほうが好きです。……ではなくて、面接に行けば良いんですか?」
「え。おまえが行くのか!? それなら、おれ、指名するよ!」
「冗談です。指名するな。背骨を折るぞ。これは預かっておきます」
その前に、何で面接に受かることが確定して話を進めてんだいこの二人。まあ、仲の良い戯れで面白いけどさ。
今日の調査はこれぐらいで、孤児院に帰ることになった。ここから歩いて帰るのは大変そうだけど、夏樹が頑張るだけさ。あたいは肩で休ませてもらうよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます