第31話

 上空から見張ってほしいと言われたけんど、夏樹だけで大丈夫かねぇ。そりゃあ上からならバトルも見やすいけんど。

 ゾンビの一体が夏樹が来たことに気付いたようで駆けていった。

 あたいが想像していたよりもゾンビの動きが速い! あんなのに突進されたらやばいよ!

 あたいは急降下する。ゾンビを転ばせられたら良いけど、間に合わない!

「おっと!」

「へ?」

 夏樹はひょいっと避けながら魔法薬をぶっかけていた。ゾンビは地面に転がり動かなくなる。

「おはるさんどうかしたか?」

「いや、あんたが避けきれないんじゃないかと思ってね」

「あっはっはっ! 心配させちまってわりぃな! これぐらいなら簡単に避けられるよ。小焼のパンチのスピードより遅いから」

「あんた、けっこう殴られてんのかい……」

 殴られてそうな気もしたけど、パンチはけっこうなことをしないと繰り出してこないはずさ。平手打ちならやりそうだけんど。

「ところで、ゾンビが何人いるか上空から見てわかったか?」

「もっかい見てくるさ!」

 何人いるか知りたいなら先に言っといてほしいところだよ!

 あたいは飛び上がって村全体を見る。うろついてるのは八体だ。見張りを頼まれてるはずだから、こっから叫んで知らせりゃ良いかね。

「八体だよー!」

「わっ、大声出したらまずいって!」

「え?」

 村中のゾンビが駆けてくる。しまった! あたいのバカ! 目が腐って無いから、音に敏感なんだ!

 夏樹はポーチから筒を取り出し、火をつけて投げた。煙幕が張られる。煙であたいも夏樹の姿が見えない。

 何がどうなったかわかんないまま、煙が晴れていく。

 五体のゾンビが夏樹の近くに転がっていた。夏樹の頬から血が流れている。切り傷を負っちまったようだ。

「ごめんよ!」

「しー。今、声出しちゃまずいって」

 夏樹の前まで降りたら、あたいの口に人差し指を当て、次の言葉を遮った。それから小声で「次は気をつけてくれな」と言われたので、あたいは首を縦に振る。

「頬に傷がついちまって……、あたいのせいだ」

「すぐ治せっから良いよ。ますます男前になったろ?」

 そう言って夏樹はニカッと笑うから、あたいは何にも言えなくなる。何だいこの人、けっこうやるじゃないか……。

 残るゾンビは三体だ。再び上空から見張る。音に反応するなら、あたいが囮になりゃすぐ終わるんじゃ……?

 あたいは夏樹の近くに降りる。

「あたいが囮になるから、その隙に討伐しちまいなよ」

「さっき似たようなことしたけど、近くの熱反応に集まってきそうだから、おはるさんだと小さくて見失っちまうかな」

「そうかねぇ……」

「ゾンビの位置がわかるなら、これを振りかけてやってくれ」

「あいよ! 任せな!」

 夏樹から蛍光ブルーの魔法薬が詰まった試験管を預かり、ゾンビの元に飛ぶ。

 ゾンビがあたいに気付いたので、あたいは頭に液体をぶっかけてやった。ゾンビは地面に倒れ、動かなくなる。……さっきも夏樹がやってたけど、自分でやるとなかなか恐ろしいもんだねぇ。

 夏樹の元に戻り、報告をする。

「ゾンビは地面に倒れちまったよ」

「ん。良くできたな、えらいえらい」

「残りもあたいに任せな!」

「そうしようかな」

 これで頬の傷についてはチャラだね! よし、張り切って倒すよ!

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