第20話

 孤児院に戻る。相変わらず子どもがその辺を走り回ったり勉強したりしている。平和で良いもんだよ。あたいにゃ刺激が足りないけど。もっとこう、激しいバトルを期待してたんだけんど、ついていくエクソシストを間違えちまったかねぇ……。まあ、この人はこの人で一緒にいたらなかなか面白いから良いか。

 ギィイ……、と軋む音を立ててドアが開かれる。ここは工房のようだ。魔法薬を作るのに必要な器具がずらっと並んでいる。

 あたいは難しいのは作れないけんど、腹痛の薬ぐらいなら作れるから、なんとなくどれを何に使う器具かってのはわかる。

 夏樹は引き出しから次々に薬草を取り出していた。後はヤモリの尻尾や黒焦げのイモリ。

「恋薬の材料ってこんなに簡単なんだね?」

「まあ、作るのは簡単なんだよ。だから、魔女見習いの実技試験で使われてんだ。効果があるかは、作る人の技量によるけどな」

「夏樹が作るのは効果あるんだよね?」

「もちろん。おれが作った薬はギルドで売ってんだ」

 そういえば、ふゆのいるカウンターに蛍光色の薬が並んでた。疲労回復効果のあるものや魔力を高めるものやら何やら。きちんと見てなかったけど、あんなに人の出入りが激しいところで売れるものを作れるってすごいね。

「ちなみに売り上げは?」

「三日に一度は納品しておかねぇと切れちまうぐらいだな。ギルドに討伐の依頼が増えると売り切れになることもしばしばある」

「すごいじゃないか! 見直したよ!」

「あははっ、もっと褒めてくれて良いんだぞ」

 と話しつつも夏樹は惚れ薬を完成させたようだ。蛍光ピンクの液体が試験管に詰められた。

 こんなに視覚的に目立つモノなら、こっそり飲ませることなんてできそうにないね。

「これ、盛るの難しくないかい?」

「サキュバスに渡すものだからこれで良いんだ。種族的に魅了チャームがあっから、相手はメロメロになっちまうし、あの子は『うちをメロメロに』って言ってたろ?」

「言ってたけど、それなら、あの子が飲むのかい?」

「いいや。飲むのは相手だな。その、ダークエルフと魔術師の混血児だ」

「うーん? だったら、メロメロにってのは混血児になんないかい?」

「そうだな。淫魔じゃねぇから丁寧にお上品に言ってくれたんだと思う。さすがに上級のサキュバスは違うなぁ」

「で、けっきょくどういうことだい?」

「簡単に言うと『もっと激しく求められたい』ってことだな」

「なーるほどねー」

 それならそうとはっきり言りゃ良いのに。焦らしてくるもんだねぇ。

 そういうわけで、薬は完成したので、後は飲んでくれる人を探すだけだ。だけども、惚れ薬を好き好んで飲もうって人はいないと思う。

「女性向けのリラクゼーションサロンに行ってみっか」

「それ、インキュバスがいるんじゃないかい?」

「どうだかなぁ」

 再び街に出る。日が暮れてきたので、街にも色々な人が集まるようになってきた。夜の街にはこれぐらいの活気がお似合いさね。

 女性向けリラクゼーションサロンを片っ端から回っていくも、なかなか出会えない。スタッフに聞いてもそういう混血児はいないらしい。インキュバスがノリノリで薬を飲んでくれようとはしてくれるけんど、丁重にお断りした。

「意外といないんだな」

「飲ませなくても大丈夫なんじゃないかい? 夏樹の薬は効果あるんだろ?」

「効果の自信はあるんだけどさ、試しておきたいんだよな」

 悩んでいると夏樹のスマホが鳴った。相手は神父のようだ。夏樹は再度頼んでいた。さっきこってり叱られたってのに、まだ頼むってしつこいと思うよ。

 あたいはさっきの店で貰ったりんごジュースを飲みつつ、会話が終わるのを待つ。会話が終わった夏樹は嬉しそうにしていた。

「おはるさん。教会に行くぞ! 小焼が手伝ってくれるってさ!」

「やったじゃないか!」

 どうやって説得したのかわかんないが前進したのは良いことだね!

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