第22話

 孤児院に戻ってきて、掃除したり子どもの世話をしたり、色々雑務をこなしたり、けっこうやることがあるもんだねぇ。

 なんだか妙な気配を遠くから感じる。近くに魔物が来たのかもしれない。楽しいバトルが見れるんなら大歓迎さ。襲撃があるのは悪いもんだけど、あたいは血沸き肉躍る激しいバトルを見たいんだよ!

「夏樹。何か来そうだから、あたいは四つ葉を取るよ。あんたの肩の上にはいるから、安心しな! 周りに注意しておくんだよ!」

「え? わ、わかったよ」

 四つ葉を取って、片しておく。さて、何が来るか楽しみだ。と思っていたら、向こうから神父が歩いてきている。後ろに修道女を連れていた。……あの修道女、何か妙だね。あれが妙な気配の正体か?

 夏樹に伝えようかと思ったら、こいつは主人に懐いている犬のように駆け寄っていく。

 「廊下は歩くもんだよ!」とあたいが言う前に、神父に叱られていた。姿が見えたからって走っていくもんじゃないのさ。

「……ちょうど良かった。この子の案内を頼みます」

「へっ? ああ、わかったよ」

 神父は修道女を前に押し出して、横の部屋に入った。

 空色の髪にそら色の瞳をした女だ。魔力を感じるから、この子は人間じゃない。神父が連れてきたくらいだから何か事情があるのかもしれないね。

 と思っていたら、女は夏樹に手をかざしていた。この子、アレだ。

「えいっ!」

「ん? おれに魅了チャームしてどうすんだ? って、サキュバスなら当然のことか」

「うちの人を魅了するなんて、許さないよっ!」

「ぎゃんっ!」

 頭に四つ葉を乗せなおして、サキュバスを殴る。

 戦闘系の魔族じゃないにしても、こんなにダメージ入るものかい? すごく痛そうにしてるよ。

 夏樹には魅了チャームが効かないから、そこは助かったよ。あと、正体に気付いてたんだね……。今の動きで察したのかもしれないけんど。

「ウチがサキュバスってわかるやの?」

「おう。おれはエクソシストの夏樹なつき。こっちは相棒のおはるさんだ」

「うちの人に手を出したら許さないよ! サキュバスなんてメッタメタのギッタギタにしてやるさ!」

 相手の名前もわかってないってのに名乗っちまうのは、エクソシストとしてどうなんだかって思うけど、これはマナーの問題なのかもしれないね。あと、人の好さがそうさせちまってるのかもしれないさ。

 サキュバスは怯えた表情をしてるから、これで夏樹に悪さをすることはないはずさ。修道服だから胸も見えてないし、うちの人をオトすのには素材が足りなかったってもんさ。おっぱい見せりゃホイホイできそうな人だからねぇ!

 でも、どうして神父はサキュバスを連れてんだか? 慈悲ってやつで側においてやってんのかねぇ。魅了チャームがかかっているようにも見えないから、泳がせて娯楽として扱ってる? それはそれで怖すぎるよ……。

「それにしても、小焼は何でサキュバス連れてんだ? まあ、あいつの好みにドンピシャな姿してっけど」

「あのー、小焼って、神父様の名前やの?」

「あ。やっべ!」

「あんたねぇ! 何でサキュバスに名前教えてんだい!」

 この様子だと、サキュバスは名前を知らなかったはずなんだから、教えるもんじゃないんだよ!

 夏樹の頬を抓って叱っておく。どうせ後で神父にもお叱りを受けるだろうけど、あたいが先に叱っておいてやるのさ。

 こういうところが抜けてるから、世話してやんないといけないのさ。

「痛い痛い! おはるさん痛いってぇ!」

「あんたが勝手に神父の真名を教えるから悪いんだよ!」

「だって、知ってると思ったんだよぉ!」

「あの神父が自分から魔族に名前を教えると思うかい!」

「それは思わねぇな! いだだだ!」

 サキュバスは悪だくみしたような笑顔だったのに、蒼褪めた顔になっていた。

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