第33話:勉強会
週末になり、約束の日となった。
外は梅雨なにもかかわらず快晴となっていた。
奏多と世那は朝食を食べ、その後に掃除をして俊斗と璃奈が来るまでの間に準備を済ませる。
時刻が朝十時に差し迫ろうとしていた頃チャイムが鳴った。
世那がチャイムに出る。
「はい。雨宮です」
部屋の主が奏多ということもあり、世那が出るときは奏多の苗字を使っている。
『やっほー!』
インターホンの液晶越しに璃奈が手を振る。
「今開けますね。入ってきてください」
程なくして部屋のチャイムが鳴った。
奏多が出向き玄関のロックを解いて扉を開ける。
「ちょっと早いけど」
「雨宮くんもやっほー!」
「五分前だな。上がってくれ」
二人は「お邪魔します」と言って部屋に上がると世那がいた。
「お二人ともおはようございます。ゆっくりしてください」
「お邪魔します。って、改めて同棲しているんだなって実感するよ」
「そうだね。聞いただけじゃ信じられなかったけど、こうしてみると実感するよ」
璃奈と俊斗は世那と奏多を見てそう呟いた。
「あのなぁ……まあ、取り敢えず座ってゆっくりしてくれ」
椅子に座った二人へとお茶を出す。
出されたお茶を一口飲むと、カップを置いて部屋を見渡す。
「広いね~」
「親がセキュリティの良いところを選んだから、必然的に部屋も広くなったんだよ。まあ、お陰で世那も安心して過ごせるのが救いだ」
「ははっ。それで同棲は慣れた?」
同棲してから二カ月近く経っていた。
「そうですね。私は少しですが慣れてきました」
「俺も同じかな」
「へぇ~。そうだ! 同棲しているってことだから何か面白い話はないの? 例えば一緒に寝たとか」
そう聞いてくる璃奈に、奏多と世那は思わず固まってしまう。
ピンポイントに聞かれたことですぐに否定できなかった。世那は頬を赤く染めて俯いてしまう。
「その反応、寝たんだ~。本当なの雨宮くん? ねぇねぇ、どうなんだい?」
「璃奈。あまりそういうことを聞くもんじゃない。それに、この反応だけで分かるだろ」
「ちぇ~」
めんどくさい絡みをする璃奈を俊斗が窘める。
少しして世那が手を叩く。
「それでは、そろそろお勉強を始めましょうか」
「話すのもいいけど、今日は勉強するために集まったんだからな」
「うげぇ……」
「勉強嫌いだよぉ」
俊斗と璃奈は嫌そうな顔をするが、遅れて教科書とノートといった勉強に必要な道具を取り出す。
そこから勉強が始まった。
最初は自分達でやっていたが、世那が成績優秀ということもあり教えてもらうことが多かった。集中しており気付けば十二時を回っていた。
俊斗の腹からぐぅ~という音が響く。
奏多はペンを置いて立ち上がる。
「よし。お昼にするか」
「よっしゃぁ!」
俊斗がペンを置いてガッツポーズをとり、璃奈は両手を上に伸ばしていた。
「奏多さん、手伝いましょうか?」
「いいや、教えてもらっているし俺が作るよ」
「なら私達が手伝いよ」
「そうだな」
立ち上がろうとする二人だが奏多がそれを制する。
「いいや。二人は客人だから手伝わすことはできないよ。何か要望はあるか? 簡単な物しか作れないけど」
すると璃奈が手を挙げる。
「シェフのお任せで!」
「はいよ。俊斗に世那も食べたいものはあったりするか? なかったら高倉さんの言う通り俺のお任せになるけど」
「俺は構わない。奏多の手料理が楽しみだ」
「私も特に。奏多さんが作る料理はどれも美味しいですから」
何度もいいということで、奏多はエプロンを着て手際よく料理を始めた。
梅雨だが快晴ということもあり後はそれなりに暑い。なので、さっぱり系にしようと考え冷蔵庫を漁っているとキュウリににんじん、水菜、ささみ肉が出てきた。
「たしかうどんがあったよな」
確認すると乾麺があったので、お昼はぶっかけうどんを作ることにした。
鍋に水を入れて沸騰したら乾麺を入れて、その間に野菜を千切りにしていく。
ささみ肉は塩コショウ酒でレンジに入れて蒸し、出来上がったらほぐしておいておく。
ゆであがったうどんを水でさらし、水気を切ったら器によそりキュウリににんじん、水菜、ほぐしたささみ肉を乗せ、最後にゴマを振りかけたら完成だ。
タレはめんつゆに少量の柚子胡椒を入れることで香り良くする。
「ってことで、『ゆずこしょう香る彩り野菜のぶっかけうどん』の完成だ」
璃奈と俊斗は完成した料理を見てごくりと喉を鳴らす。
奏多も片づけを済ませて席に着く。
「「「「いただきます」」」」
みんなが食べ始める。
「んっ、ゆずこしょうが程よく香って美味しいです」
「だね。それにさっぱりしていて美味しいよ」
「あんな短時間でこんな美味しいのができるとか流石だな」
三者三様に奏多をほめる。
確かに美味しいが、タレもめんつゆ、オリーブオイル、レモンで作ればまた違った味わいになる。
このぶっかけうどんには様々な楽しみ方があるのだ。
楽しく食事をした後、少しの休憩を挟む。食後のコーヒーやお茶を飲みながら俊斗が聞いてくる。
「にしても、よくさっぱり系を思いついたよな」
「うーん。こんなじめじめした時期に熱いのは嫌かなと思って。だからさっぱり系にしたんだ。夏に熱いのを食べるのもいいけど、俺はあまり好きじゃないからな」
「分かる。暑い日は特に」
「夏は冷製パスタでも作ろうかな」
「冷製ですか?」
聞いてきたのは世那だった。
「そう。パスタって熱いイメージがあるけど、冷えたパスタに夏ならではの大葉やみょうが、梅干しをトッピングすれば美味しいと思わないか? ソースも少しアレンジしたオリーブオイルをかければいい感じだろうし」
「そういう発想をできるのが凄いです」
俊斗と璃奈はうんうんと頷いていた。
「そうかな」
「はい」
頷く世那を見て、もう少し料理を頑張ってみようと思った。
それから休憩もそこそこに勉強を始めるのだった。
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