第45話:天ヶ瀬邸④

 昼食を食べて、みんなは客間にやってきた。

 客間と言っても部屋は広く、ゆっくりとくつろぐことができる広さがある。

 ソファーに座り、使用人が食後のコーヒーを淹れにきた。


「すみません。妹がコーヒー苦手なので別のお願いできますか?」

「かしこまりました。結華様、何がよろしいでしょうか?」


 奏多がそう言うと使用人は結華に何が飲みたいのかを尋ねた。

 考える結華だったが、すぐに答えた。


「あの、オレンジジュースとかありますか?」

「はい。ございます」

「ならオレンジジュースでお願いします」


 するとすぐにオレンジジュースが用意されて結華の前に出される。

 みんなが雑談していると、修一が聞いてきた。


「こっちに帰るんだろ?」

「うん。世那も来ることは聞いている?」

「聞いている。どのくらいいるんだ?」


 周知の質問に奏多は考える。すると結華が思い出したように手を叩いた。


「そうだ、お兄ちゃん」

「うん?」

「一週間後に夏祭りがあるんだけど言ってきたら?」


 そう言えば夏祭りがそろそろだったかと思い出す奏多は、世那にそれでもいいかと聞いてみる。


「世那は夏祭り行きたいか?」

「はい! 是非行ってみたいです。そういうのに参加する機会が中々なかくて」

「ということだ」

「やったぁ! あ、でも私は友達と行く約束しちゃった。世那お姉ちゃんと一緒にお祭り回りたかったなぁ」

「それは仕方ない。今度だな」


 項垂れる結華だった。


「そうだわ。せっかくお祭りに行くんだもの。浴衣を着て行かないとね」

「いいのですか?」


 秋穂の言葉に聞き返す。


「初めてなんだから楽しまないとでしょ?」


 その通りだ。何事も楽しまないと。


「なら私が浴衣をデザインして早急に作らせてそっちに送るわ。もちろん、結華ちゃんの分もね」

「いいんですか⁉」


 聞き返す結華にウィンクをする鈴華。

 嬉しいのかはしゃいでいる。


「鈴華さん、いいんですか?」

「秋穂さんが言ったじゃないですか。楽しまないとって」

「ふふっ、そうですね。にしても浴衣もデザイン出来たとは驚きです」

「こう見えて、和に関しては得意なんですよ」


 上品に笑う鈴華。そこから二人はなにやら話し込んでおり、宗司と修一もなにやら話していた。


「お祭りか……」


 そう呟いたのは宗司だ。呟きに修一が反応する。


「でしたら我が社も何か行事を作りますか?」

「行事かい?」

「はい。春はお花見。夏はお祭り。秋は紅葉狩り。冬は温泉などあります。これなら良い息抜きになって生産性の向上が見込めるかと」


 修一の提案に考える宗司だったがすぐに回答を出した。


「そだな。たしかに我が社はイベントが少ないのは事実。取り入れるとしよう」


 そこからも二人の会話はどうすれば会社がよりよくなるか、働きやすい職場となるかを淡々と話していた。

 奏多、世那は結華の学校での様子を聞いていた。


「それで~」


 だれだれの授業が退屈だの、体育で成績が良かったなど話をしていた。


「二人は学校だとどうなの?」

「う~ん。普通かな」

「奏多さんは学校でもあまり変わりませんね」

「なんだ、いつものことか。つまんない。世那お姉ちゃんは学校だとどうなの? やっぱりモテるの?」


 中学二年生らしい質問をする結華に世那は答える。


「モテるとかはよくわかりませんか、アプローチはされますね。すべてお断りさせていただいていますが」

「ほぇ~やっぱりモテるんだ。お兄ちゃん、早くアタックしないと世那お姉ちゃん取られちゃうよ?」

「うるさい」


 世那は結華の言葉に頬をほんのり染めて恥ずかしそうにしており、奏多も同様に恥ずかしそうに顔を逸らす。

 そんな二人を見て微笑ましそうな顔が向けられていた。


「世那。結華さんに外でも案内してきたらどう?」

「そうですね。では行ってまいります」


 鈴華に言われて世那と奏多、結華は外にある庭園へと向かった。

 部屋に残った四人は静かになり、先に宗司が口を開いた。


「以前の世那は言われるがままに動いていた。まるで人形のように。それが、以前のお見合いの時に逃げだされたよ」


 宗司の話を修一と秋穂は黙って聞いていた。


「そしてあなたの息子さんが助けてくれた。戻ってくるなり私になんて言ったと思う? 『私はあなたの道具じゃありません』だって。娘にそんなことを言わせる私に親としての資格はあるのだろうかと常日頃考えていた」

「私も奏多から言われて後日父に叱られました。そして今は好きなことをさせようと。結華ももっと好きなことをやってほしいと考えています」


 窓を見る宗司につられて修一も同じく窓の外を見た。そこには庭園があり、三人で楽しそうに話しているのが見えた。


「あの笑顔を失わせていたと思うと心苦しいよ」

「よくわかります」


 話す二人を見て鈴華と秋穂は笑った。

 振り返った二人はどこか不満げな表情をしている。


「宗司さんも最近お父様に怒られていましたね」

「言うな。反省しているんだ」

「ふふっ、宗司さんと修一さんは似た者同士ですね」


 宗司と修一は顔を合わせて困ったような表情をするのだった。



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