第46話:雨宮家へ

 天ヶ瀬邸で一泊したのだが、世那と奏多の部屋が一緒だったのは言うまでもなかった。

 その事実に朝気付いた結華は顔を赤くしていた。


「結華、言っておくが何もなかったからな?」

「う、嘘だ! 絶対あんなことやこんなことを……」

「はぁ……世那からも何か言ってやってくれ」

「えっと、結華ちゃん。本当に何もありませんでしたよ」

「そ、そうなの」


 食堂に移動するとみんなが揃っていた。


「みなさん、おはようございます」


 世那が挨拶するのに合わせて奏多と結華も挨拶する。


「おはよう。奏多君に結華君も昨夜は良く寝れたかな?」

「はい。ぐっすりと寝れました」

「家のベッドよりふかふかでぐっすり寝れました」


 余計な一言を言う結華ではあったが、その通りなので何も言えない。

 お陰で体がいつもより軽く感じていた。


「朝食の準備が出来ている。早く席に着きなさい」


 促され席に着き、朝食を食べ始めた。

 朝食は至って普通だ。パンにスープ。サラダ、おかずが少しとなっている。

 食べていると宗司が修一に尋ねた。


「何時に行く予定だい?」

「そうですね」


 腕時計みて時間を確認する修一は答える。


「あと二時間後くらいには出たいですね」

「そうか。またこうして食事でもどうだい?」

「是非お願いします」

「それは良かった。私もこうして楽しく食事が出来るのは嬉しい。また招待しよう」


 その後も楽しく話ながら朝食を食べ終わり、食後のコーヒーが持ってこられた。

 すると奏多は思わず宗司を見た。


「これって」

「君が持ってきてくれたコーヒーだよ」

「奏多が持ってきたのですか?」

「そうだ。来るときに買ってきたようでね。その店は私が昔、行きつけの店だったんだ。世間とは狭いものだよ。美味しいから是非味わって飲んでほしい」

「ではいただきます」


 修一と秋穂はカップを持って匂いを嗅ぐと、ウイスキーとコーヒーの香りがした。

 驚きで目を見開かせる。


「これは、ウイスキーの香りですね」

「変わったコーヒーね」


 一口飲みカップを置いた。


「以外にも美味しい」

「ほのかにウイスキーの香りがまた風味を掻き立てていいわ」


 どうやら好評のようで安心する奏多。

 すると結華は気になったのか奏多の袖を引っ張り一口ほしいと言い出す。


「いいけど、無理はするなよ」

「分かってるわよ」


 そう言って香りを嗅いで一口飲んだ結華は苦そうな顔で舌をべーっと出した。


「苦い……それに美味しくない」


 うえ~とする結華が口直しにオレンジジュースを飲んだ。


「やっぱりジュースが一番」

「まだまだ子供だな」

「うるさい!」


 頬を膨らませる結華にみんなが笑った。

 笑われたことが恥ずかしかったのか俯く結華。

 そこから結華がモデルをするための詳細が話されたり、夏休みの予定を話したりして帰る時間がやってきた。

 すると使用人が紙袋を一つ持ってきた。


「こちらは?」


 修一が宗司に確認する。


「実は裏の方に畑があってそこで果物が作られている。それを使った自家製のジャムだ」

「ありがとうございます」


 頭を下げる修一。


「では世那をよろしく頼みました」

「はい。責任を持って預からせていただきます」

「修一さんに秋穂さん。しばらくの間ですがお世話になります」

「いいのよ。可愛い子が来てお母さん嬉しいわ」

「私も世那お姉ちゃんが来るって聞いたから嬉しいよ」


 微笑ましそうに見る修一と宗司。何かを話し、修一の運転する車は天ヶ瀬邸を後にした。

 向かうは雨宮家で、天ヶ瀬邸から車で三時間ほどの距離にある。

 車に揺られながら変わる外の景色を眺める。小学生が虫取り網を手に駆けているのを見て夏を感じる。


「世那ちゃん、飲み物はいる?」

「ではいただきます」


 冷えた水をもらいキャップを開けようとするのだが中々空かない。奏多は何も言わずにペットボトルを取ると「あっ」と声が零れる。

 固く閉まっているキャップを開けて世那に渡す。


「ほら」

「ありがとうございます。でもどうして?」

「いや、なんか嫌な予感がしたから」

「え? あ……」


 無理やり開けようとして中身をぶちまけるのを想像したのだ。

 世那も自分にはそういうところがあるのを理解してか「そうですね。助かりました」と素直にお礼を言った。

 そんな二人へと向けられる視線。もちろん、結華である。


「ママー、二人がイチャイチャしてる!」

「おい! イチャイチャとか言うな!」

「そうですよ! ち、違いますから!」


 焦ったように否定する二人を見て秋穂は「あらあら」とふふっと笑っていた。


「結華、いいじゃない。もしかしてお兄ちゃんが取られちゃって嫉妬してるの?」

「ち、ちち違うよ!」


 あまりに動揺している結華は顔が赤い。

 奏多は不思議そうに首を傾げており、世那はフフッと笑って結華に耳打ちする。


「奏多さんのこと大好きなんですね」

「ふぁ⁉ そ、そんなんじゃないって!」

「大丈夫ですよ。見てて分かりますから」

「もー、世那お姉ちゃんまで!」


 耳まで真っ赤に染まっている結華は両手で顔を隠してしまった。

 そんな感じで楽しくしているとあっという間に時間は過ぎ家が見えてくるのであった。

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