第47話:雨宮家①

 駐車場に車を止めて家へと荷物を入れる。


「さあ、世那ちゃんも上がってちょうだい」

「世那さん、どうぞ」

「お邪魔します」


 靴を脱いで揃え家へと上がった世那。


「自分の家だと思ってゆっくりしてほしい」

「はい。ありがとうございます」


 雨宮家は周りの家より二回りほど大きい。

 それは二人が天ヶ瀬財閥で大きな役職についていることが理由に挙げられる。他にも投資などを行っており、大分裕福であった。


「世那ちゃんの部屋はかー君と同じ部屋だから」

「わかりまし――ふぇ?」


 世那の口から間の抜けた声が漏れた。

 奏多が何かを言おうとするよりも先に結華が反論した。


「年頃の男女が一緒に寝るのはどうかと思うけど⁉」

「俺も結華の言う通りだと思うけど」

「でも、二人は一緒に寝たいでしょ?」

「違う!」

「違います!」


 さも一緒に寝ることが当然のように言ってくる秋穂に奏多と世那は行きぴったりに否定した。

 残念そうな表情をする秋穂に、結華は世那に提案する。


「世那お姉ちゃんが良ければだけど、私の部屋で一緒に寝る?」

「いいのですか?」

「客室はあるけど、世那が一緒に寝たいなら好きな方で良いと思う」


 少し考える世那だが答えが出たようだ。


「ではご一緒しますね」

「やったぁ!」


 喜ぶ結華だった。

 それから時間が過ぎて外も薄暗くなってきた。

 リビングでゆっくりしていると秋穂が何やら考えていた。


「お夕飯どうしましょう?」

「作ろうか?」

「ほんとに⁉ かー君の料理が食べれるなんて!」

「だからその呼び方は止してくれ……」


 勘弁してくれと言いたげな表情をする奏多に世那がふふっと笑った。


「いいですね。かー君」

「お前までも……」


 それから少し弄られた奏多は冷蔵庫の中を見ながら何を作るか考える。

 少し考えるも何がいいか思い浮かばず、みんなに意見を求めることにした。


「私はなんでもいいかな」

「う~ん。私もかー君が作ってくれるなら何でもいいわ」

「そうですね。でしたらカレーとかどうでしょうか?」

「カレーか……」


 ルーも見つけており材料も揃っている。

 それでいいかと聞くと問題ないようだった。


「父さんもカレーでいい?」

「ああ」


 それだけ言うとまた新聞へと顔を向けて読み始めた。

 奏多はエプロンを付けて準備を始めると世那と結華もやってきてエプロンを付け始め。腕まくりをする。


「何してるんだ?」

「手伝おうかなって」

「何もしないのは申し訳ないと思いまして」


 すると奏多ではなく修一が答えた。


「世那さんが気にするようなことではないですよ。自分の家だと思ってゆっくりしてください」

「ですが……」


 すると修一は柔らかい笑みを浮かべた。


「お怪我のないように」

「はい!」


 奏多は今更断れないよなと思い二人にピーラーと野菜を手渡した。


「それじゃあ、皮むきを頼む」

「分かりました」

「はーい」


 慣れた手つきで皮を剥いていく結華に対し、世那はゆっくりジャガイモの皮を剥いていた。

 すると、ツルッと手からジャガイモが飛んで奏多の顔にヒットした。

 ジャガイモが床に落ちる前に奏多がキャッチする。


「すみません!」


 深く頭を下げる世那。


「い、いや。大丈夫。次は気を付けてな」

「はい」


 再開して数分後。


「あっ⁉」


 再びとんだジャガイモが肉を炒めている奏多の顔に直撃した。

 肉の焼ける音だけが部屋に響く。

 結華も何とも言えない目で世那を見ていた。

 するとリビングの方からクスッと笑い声が漏れた。


「世那ちゃん、もしかして料理苦手?」

「その……」

「家事全般が壊滅的だ」

「奏多さん⁉」


 すると結華が「うそ……」と信じられないとでも言いたげな目で世那を見ていた。

 完璧そうに見えて実は料理ができないという事実が発覚した。

 恐る恐る世那に尋ねる。


「もしかして、普段二人で一緒の時って料理は……」

「か、奏多さんに任せてます。ごめんなさい……」

「だ、大丈夫だよ。お兄ちゃん料理好きだし。ね?」

「そうだな。でも世那は最近、料理を学ぼうと手伝うようになっているんだ」

「少しでも奏多さんの負担を減らそうと。それに……たいですから」


 最後の言葉は奏多には聞こえなかったが結華には聞こえていたようだ。

 ニヤニヤとしながら皮を剥いていた手を止める。手を洗った結華は世那に耳打ちする。


「料理が上手くなって美味しいって言ってほしいもんね」

「ふぇ⁉ あの、結華ちゃん⁉」

「あー、私疲れちゃったから二人に任せるね~」


 そう言ってリビングでテレビを見始めてしまった。秋穂と何かを話しており、こちらを見てニヤニヤしていた。


「なんで笑っているんだ?」

「き、気にしない方が良いと思いますよ」

「そうか? 中途半端で終わりにしやがって」


 奏多も皮を剥き始めた。

 そこから世那に教えながらカレーを作り、今はコトコトと煮込んでいた。


「まあ、今日も及第点。いや、ギリ赤点か」

「はぃ……」


 シュンと落ち込む世那の頭を撫でる奏多。


「でも前よりは皮を剥くのが上手くなってるよ。この調子だ」

「は、はい! もっともっと頑張りますね!」


 世那は嬉しそうに微笑んだ。

 そんな二人を見て結華は二人に聞こえない声量で秋穂に言う。


「二人、あれで付き合ってないらしいよ」

「うそっ⁉ どう見てもイチャイチャしてるじゃない」

「私も分からないよ。早く付き合っちゃえばいいのに」

「ほんとね。これは私達が頑張らないとね」

「だね!」


 二人は奏多と世那をくっつけようと作戦を考えるのだった。

 そんな妻と娘を見て修一は思った。

 ろくなことを考えていないと。

 そして、その日のカレーは中辛にも関わらずやけに甘く感じるのであった。


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