第48話:雨宮家②

「お兄ちゃんと世那お姉ちゃんは夏祭り行くんだよね?」

「行くぞ」

「はい。行きますよ」


 結華の質問に奏多と世那は頷いた。

 世那がお祭りに行ったことがないと言っていたのでこれを機会に行こうと思ったのだ。


「ところで夏祭りはいつなんだ?」

「そういえば言ってなかったね。三日後だよ」

「うーん」

「奏多さん、どうかしたのですか?」


 頭を悩ます奏多に世那が質問した。結華もうんうんと頷いており気になっている様子だ。

 奏多は当日まで何をしようか考えていなかったことを二人に話す。

 すると、近くで新聞を読んでいた修一が提案する。


「少し行ったところに観光スポットがある。行ってきたらどうだ?」

「そういえばヒマワリのお花畑があったわね」


 名案だとばかりに秋穂が頷いていた。

 奏多は近くにヒマワリが有名な場所があることを思い出す。


「ならそこに行ってみるか。世那はどうする?」

「良いと思います。すぐに行きますか?」


 世那の質問に奏多は首を横に振る。

 昨日返って来てまたすぐに外出するのは流石に疲れるというもの。


「流石にゆっくりしたいな。明日にでも行かないか?」

「分かりました」

「なら世那お姉ちゃん、お勉強教えてくれる?」

「いいですよ」

「やったぁ!」


 喜ぶ結華は世那の手を引いて自室へと向かってしまった。

 残った奏多はテーブルに置いてあるコーヒーの入ったカップを一口飲み修一に尋ねる。


「そういえば父さん、どうしてひまわり畑を?」


 奏多の質問に答えたのは修一ではなく秋穂だった。


「それは私と修一さんの思い出の場所だからよ。あの場所でプロポーズをしてくれたのよ」


 嬉しそうに微笑む秋穂に、修一は恥ずかしそうにゴホンと咳払いをする。


「余計なことを言うな」


 そう言って新聞で顔を隠してしまった。

 奏多は父の意外な一面を見て思わず笑ってしまった。


「何故笑う?」

「いや、父さんも青春していたんだなって」

「私とて恋愛くらいはする」

「へぇ~」


 すると秋穂が奏多の正面の席に座ってお茶を飲みながら話し出す。


「私と修一さんが出会ったのは高校の頃でね。真面目な修一さんに惚れた私が告白したんだけど最初は「恋愛に興味ない」とか言ってたけど、一緒に居るようになってもう一度告白してようやく付き合うようになったの」


 思い出すように語る秋穂の表情は幸せそうだ。

 修一が何も言わないからか秋穂は続ける。


「最初にデートした場所がおすすめしたひまわり畑でね。そこから何度もデートを重ねて修一さんからあのひまわり畑でプロポーズしてくれたの。だから私達にとってあの場所は特別な場所なの」


 すると修一がそのままの新聞を読んでいる格好で奏多に言う。


「あの場所はお前も結華も一度連れて行っている」

「そうなの?」

「まだ幼い頃だから覚えてはいないだろうが」

「うーん。よく思い出せないや」

「結華が泣いていたのをお前が慰めていたのを思い出す」

「ふふっ。そんなこともあったわね」


 懐かしそうな表情をする秋穂。


「そうか。ならせっかくの機会だし行ってみるとするよ」

「デート楽しんできなさい」

「デートじゃないって」

「男女が一緒に出掛けるのはもう立派なデートよ。心に留めておきなさい」


 頷く奏多だった。

 時刻は夕方になり、二人がリビングに戻って来た。

 そこには疲れ切った表情の結華と面白そうにしている世那。


「何があった?」

「聞いてよお兄ちゃん! 世那お姉ちゃんったら、厳しいんだよ!」

「そういえば、勉強教えてくれた時は厳しかったな」

「色々お話ししようと思ったのに……」

「ですが夏休みの宿題がほとんど終わったのですらいいじゃないですか」

「それはどうだけどさぁ」


 不満げな表情をする結華に思わずクスッと笑ってしまう。


「それで明日はひまわり畑行くんだ」

「ああ。結華もいくか?」


 チラッとほんのりと頬を染めている世那を見た結華は首を横に振った。


「いいや。せっかくだから二人で楽しんできたら」

「そうか? ならそうするけど」


 奏多にはどうして世那の顔が赤かったのか分からない。

 すると結華が小さく「お兄ちゃんて思ったより鈍感だよね」と呟くが、その呟きは奏多の耳には届いていなかったのだった。

 その日の夕飯は何故か赤飯になっており、さらに頭を悩ます奏多だった。

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