第44話:天ヶ瀬邸③

 現在、奏多の両親、妹の結華と天ヶ瀬家を交えて昼食ができるまで客間で談話していた。

 奏多の父、修一しゅういちと妻の秋穂あきほが頭を下げた。


「この度はご招待していただきありがとうございます」


 二人が頭を下げたのを見て、奏多と結華も同じように頭を下げた。


「顔をあげてほしい。娘が世話になっているのでお礼を含め、両家の親睦を深めようと考えていた。それに、娘がお世話になっているのはこちらです。なので頭をお上げください」


 宗司に言われて奏多たちは顔を上げた。

 すると宗司は世那を見て微笑みながら話を続ける。


「こうして家事もろくにできない世那が奏多君のところでお世話になっている。社長としてではなく、一人の父親として感謝しているんです」

「お互い様ということですね」

「はい。ところで、二人の活躍は私の耳にまで届いている。会社に尽くしてくれてありがとう」


 宗司が頭を下げたのを見て、修一と秋穂が焦って顔を上げるように言う。

 上司ではなく、今は社長として頭を下げているので、二人の焦るは当たり前だった。だが、社員の頑張りに頭を下げることができる社長というのはどれほどいるだろうか。

 それだけで宗司という人物像が見て取れる。


「顔上げてください。それこそ頭を下げる必要などありません。私と妻は今の仕事が好きなのです」

「修一さんの言う通り、今の仕事が好きでやっているんです。ですから社長が頭を下げる必要はないんです」


 すると宗司は顔を上げて隣に座る鈴華と顔を見合わせてクスッと笑った。


「そうか。でも二人の活躍があってこそ今の会社がある。これからもよろしく頼む」

「もちろんです。こちらこそよろしくお願いします」

「私からも、よろしくお願いします」


 すると隣に座っている結華が未だに緊張しているのが分かり奏多が声をかけた。


「どうした結華。もしかしてまだ緊張しているのか?」

「そ、それはそうだよ。お兄ちゃんはなんで緊張していないの。普通は緊張するでしょ」

「だって二回目だからな。それに、前回は泊っていったから」

「聞いてないんだけど?」

「奏多さん、結華ちゃんに話してなかったんですか?」


 話を聞いていたのか世那が会話に入ってくる。奏多は世那の言葉に頷いた。


「いやぁ、後でもいいかなって」

「話してよ! そういうところだけはお兄ちゃんダメだよね」

「ごめんって」


 すると宗司や鈴華、修一に秋穂も奏多たちが話しているのを見ていた。


「そちらが娘さん?」

「はい。娘の結華です。今は中学二年です」


 結華は居住まいを正して自己紹介する。


「遅れましたが、妹の結華です」


 二人も軽く自己紹介する。

 すると鈴華が結華の手を両手で握った。


「へ?」

「とても可愛いわ。今度一緒に買い物いかない?」

「え? あ、あの……」

「私、こう見えてアパレルの経営をしながら趣味で服のデザイナーをしているの。私がデザインするから良かったら着てほしいの」

「ふぇ?」


 困惑する結華をよそに、奏多は鈴華がアパレル経営をしながらデザイナーをしていることに驚いていた。

 しかも趣味でデザイナーをしているのだから驚かないわけがなかった。

 結華はどう返したらいいのか迷っており、奏多や世那、両親を見る。


「鈴華さんもこう言っているんだしお言葉に甘えたらどうだ?」

「でも……」

「いつでも私のところに遊びに来てくれていいわよ。あ、これ私の名刺ね。これに電話してくれればいつでも出るわ。あ、私のところでモデルもやってみない? 報酬は弾むわよ♪ あ、なんなら定期的に泊まりに来てくれてもいいわ。その方が色々と楽だからね」


 話を聞かずに会話を進める鈴華に対し、結華は困惑のあまり固まっていた。

 程なくしてハッとした結華に修一と秋穂は言う。


「仕事で私達も家に居ない時が多い。結華の好きなようにしなさい」

「そうね。結華に迷惑じゃないかと思っていたの。だから私達は何も言わないわ」


 二人の言葉は本心だった。

 結華は奏多を見て、どうすればいいのかを訴えていた。


「好きなことをしろ。やりたいならやればいいし嫌なら断ればいいと思うよ」

「そうよ。奏多君の言う通り。結華ちゃん、どうかしら?」


 結華は少し悩むも、鈴華を見て答える。


「私で良ければ」

「やったわ! 磨けば最高のモデルになるわ」

「え?」

「あれ? 言っていなかったかしら? 私、モデルの事務所も経営しているのよ♪」

「えぇ~~~⁉」


 そんな驚きの声が響くのだった。

 それから昼食の準備が整ったと使用人から言われたので、前回食事したところと同じ大きな食堂へと通された。

 会食でもするのかと言いたくなる広さに、奏多を除いた雨宮家は驚きのあまり目を見開いていた。


「広っ⁉」


 結華が開口一番に口にした。

 奏多も数回目にはなるが未だに慣れていない。


「奏多君には話したが、要人や企業の社長を招くこともあるんだ」


 宗司が三人に説明した。


「さあ、食事が出来ていることだし席に着こう」


 促されみんなが席に着いて食事が始まる。だが、コースともいえる料理に結華が思わず宗司に聞いてしまった。


「あの、豪華ですね?」

「普段はこれほど豪華じゃなくてみんなが食べる食事と変わらない。こうやって客人を招いた時だけなんだ」

「そ、そうなんですか」


 並ぶ料理はどれも美味しそうだ。

 こうして雑談などを交え、時には二人の生活を聞かれて鈴華や結華に会話を深堀されたりと楽しく夕食を食べるのだった。

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