第11話:調理実習②
始まった調理実習。奏多は聞くことがあった。
「
三人と言ったのは怪しまれないためであり、世那もそのことに気付いていた。
「そうだな。俺はちょっとしかできないな」
「実は私も料理は苦手で……」
俊斗と璃奈が申し訳なさそうにしている。そこに世那も申し訳なさそうに手を挙げた。
「少しならできます」
「おお! 流石だよ、世那ちゃん!」
「いえ、教えていただきましたから」
相変わらず璃奈のコミュ力に驚かされるも、奏多はコホンと咳払いをする。
「じゃあ、ここはよく料理をしている俺が仕切るってことでいいか? 意見があるなら聞くけど」
「その方がむしろ助かるよ」
「だね~」
「お願いします」
エプロンを身に着けてハンバーグ作りが始まったが、世那のエプロン姿にみんな注目している。
奏多は何度も見てきたが、みんなが見るのはこれが初めてとなる。
「エプロン姿、似合うな……」
「だな……」
ヒソヒソと話す男子の背後から声が掛けられた。
「ところで私のエプロン姿はどうだ? ほら、なにか感想はないか? あるだろう?」
ギギギッと油の差し忘れた機械のように振り返ると、そこには笑顔にしている桜井先生が立っていた。
笑顔なのに笑っていない。
男子たちの顔が青ざめていく。
「い、いえ。大変お似合いかと」
「は、はい。とてもお似合いですよ」
「そうかそうか。どう似合っているのか教えてもらおうか」
青かった顔がさらに青く染まる。
「さあ、私がハンバーグの作り方を教えてやろう。嬉しいだろ?」
「「はぃ……」」
その後、奏多の指示でてきぱきとハンバーグ作りが進んでいく。
巡回していた桜井先生が、奏多の手際の良さを見て肩を組んできた。
「よぉ、天宮。ずいぶんと料理が得意なようだな?」
ほのかに甘い香水の香りが鼻につき、胸が腕へと触れている。柔らかい感触へと意識しそうになるが目の前の焼いているハンバーグへと意識を集中させる。
そこへ世那が注意をする。
「桜井先生。いくら独身の教師といえど、生徒の、それも男性の肩に触れるのはどうかと思いますよ?」
少し言葉に棘があるようにも感じていた奏多。世那の言葉に桜井先生のこめかみがピクッと動いた。
「へぇ~、天ヶ瀬。自分が優秀だからって先生にそんなことを言ってもいいのか?」
「自分は優秀じゃありませんよ。ただ、異性へと容易く触れるのはどうなのかということです」
「言うことが違うねぇ……まあ、天ヶ瀬の言う通りだな。雨宮、悪いな」
「いえ。気にしていないので」
「そうか」
離れ際、桜井先生が奏多の耳元で囁いた。
「あとで胸の感想を教えろよ?」
「⁉ 教えませんて!」
「ははっ、それじゃあまた来るぞ~」
そう言って桜井先生は別の班へと言った。
世那を見ると、少し不服そうな表情でこちらを見ていた。
「どうかしたか?」
「いえ。別に」
ふんっとそっぽを向いてしまったが、これがまた可愛らしい。
俊斗と璃奈は不思議そうな表情しているが、それも一瞬。
「お、そろそろ焼けたんじゃないか?」
確認してみるも、もう少し焼いた方が良いと判断する。
「うーん。あともう一~二分少し蒸し焼きにしようか」
時間が経ち奏多が蓋を開けて確認する。程よくふんわりと仕上がっており、仲間で火が通っていた。
お皿に盛りつけて、次はソースを作る準備に入る。
「ソースってどうやって作るんだ? ハンバーグといえばデミグラスソースって感じだけど」
「私もデミグラスソースかなって」
答えたのは奏多ではなく世那だった。
「デミグラスソースには赤ワインが使われています。今日は赤ワインがないのでシンプルに肉汁を使って、そこにケチャップやソースをいれて作ります」
「そういうことだ」
「へぇ~、世那ちゃんって物知りだね~」
「いえ。私も教えてもらいましたので」
そんなこんなで順調にソースも作り終わり実食に移った。
先生用に用意してあった皿と席に桜井先生が座った。
「悪いな手伝ってもいないのに用意させて」
「いえ。気にしないでください」
「それじゃあ食べるとしようか」
全員が「いただきます」といって食べ始めた。中にはハンバーグが焦げた班もある。奏多たちも一口、口へと運ぶ。
「ん~っ! これ、美味しいよ!」
「ほんとだ! 絶品だな!」
璃奈に続いて俊斗も食べたハンバーグを褒める。世那も食べており「美味しいです」と喜んでいるようだった。
「美味しいなら何よりだ」
そこに、桜井先生が奏多の肩をガッと掴み目を合わせる。
「おい雨宮。養ってやるからうちで料理作らないか?」
「作りませんって」
即座に否定した奏多に桜井先生は小さく舌打ちをする。
「今舌打ちしなかった⁉」
「気のせいだ。そんなことより、口の中で肉汁がこれでもかと溢れてくる」
「よく練って、じっくり焼いたことで中に肉汁が溜まっているんですよ。だから空気を抜く作業がハンバーグ作りには大切なんです」
「なるほどな」
そこから竹井先生も奏多の料理技術を誉め、みんなで美味しく食べるのだった。
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