第12話:調理実習③
調理実習が終わりお昼休み、世那はクラスの女子に囲まれて調理実習のことを聞かれていた。
「天ヶ瀬さんって料理も詳しいの⁉」
「私たちに教えてくれたよね? あの時教えてくれたから美味しくできたの!」
世那は調理実習の際に他の班の人にアドバイスなどをしており、その時アドバイスをされたお礼をしていた。
「いえ。あの時は私が知っていることを教えただけなので、大したことはしていませんよ。上手くできたのはみなさんが頑張ったからです」
柔らかい笑みを浮かべる世那は同性でも見惚れてしまうほどに美しく、女子たちは頬を赤く染めてしまう。
ぼーっと窓の外を眺めている奏多に俊斗が声をかけた。
「改めて奏多って料理が上手いな」
「そうだよ!」
璃奈がグイッと体を乗り出す。
「てきぱきと進めていくし、ハンバーグはジューシーで美味しかったよ! 世那ちゃんがサポートしているから私と俊君は何もやってないや」
ははっと笑う璃奈につられて俊斗も笑う。
二人はほとんど眺めているだけであったが、それでも洗い物などを率先してやったお陰で他の班よりも早く終わったのだ。
「今度は手料理を振舞ってくれよ」
「私も行くね!」
「はいはい。機会があればな」
「言質取ったからな!」
指を差す俊斗に奏多はため息を吐くのだった。
それから午後の授業も一通り終わり放課後となった。世那は相変わらず食事や買い物などを誘われてるが丁寧に断っていた。
周りも世那がお嬢様ということを知っているので、断られれば素直に引き下がっていた。
「んで奏多は今日どうする? 一緒にゲーセンにでも行くか?」
「うーん。悪いけど今日もやめておくよ。夕飯を作らないとだからな」
「一人暮らしってのも大変だな」
「まあね」
「俊君、早く私達も一緒に暮らしたいね!」
俊斗の腕に抱き着く璃奈。
「それは卒業してからだろ」
「二人は卒業したら一緒に暮らすのか」
「そうだよ! お互いの両親からも許可出ているの!」
璃奈は「ねー!」と俊斗に顔を向けると、恥ずかしそうにしながらも頷いていた。
そこから甘い雰囲気になってきたので奏多は静かに変える準備を始める。すると世那も帰る準備を始めてり、それに気付いた璃奈が駆け寄る。
「世那ちゃんまた明日ね! 今日はありがとう!」
ギューッと抱き着く璃奈に困った表情をするも笑顔で「いえ、こちらこそありがとうございました」と返す。
「それではまた明日」
「ばいばーい!」
手を振る璃奈に、世那も小さくだが手を振って返し教室を出ていった。
少しして奏多も席を立ちあがる。
「それじゃあまた明日。俊斗、部活に遅れるぞ」
「あっ、やっべ⁉ 悪い璃奈、俺は部活に行くわ!」
「あっ、ちょっとぉ!」
そう言って俊斗は走っていき、廊下から先生に怒られる声が聞こえ、教室に残っていた面々は笑うのだった。
その後、奏多は家に帰ろうと公園で世那が待っているのを見つけた。
「世那、待っていたのか?」
「あ、奏多さん。はい。一人で帰ってもやることがないので」
「世那には趣味とかないのか?」
「私、趣味といった趣味はないんです。家事は苦手ですし」
そう言って世那は苦笑いを浮かべたが、そんな彼女の表情を見て奏多は困った表情で頭を掻きむしる。
「俺だって趣味という趣味はないよ。本を読むことくらいだから」
「それも立派な趣味ですよ」
趣味と言えば趣味になるが、奏多にとって読書は暇つぶしになっていた。料理はやらなければいけなかったからで趣味ではない。
強いて言えば、コーヒーを美味しく淹れることだろう。
「人生長いんだからゆっくり見つけていけばいいんさ」
「ふっ、そうですね。ありがとうございます」
口元に手を当て笑う世那に思わず目を奪われてしまう。すると世那は首を傾げて奏多を見ており目が合った。
「あの、私の顔に何かついていましたか?」
「あ、いや。何でもない」
奏多は視線を逸らし、耳まで血が上るのを感じていた。
「赤いようですが熱でもありますか?」
「いや、大丈夫。夕飯の買い出しにでも行こうか」
「はい、今晩は何を作りますか?」
まだ熱が残っているのを感じながらも奏多は何を作ろうか悩む。春の旬といえば山菜などあるが、魚にも旬というのが存在する。
冬の魚が美味しい理由は、冬を越すために秋に荒食いをして脂肪を蓄えるからであり、春はというと、産卵期で多くの栄養を必要としている。
旬の魚といえば
「そうだな。今日は魚にしようか」
「いいですね。鰆などどうですか?」
「春の魚だからか?」
「はい。その、変でしょうか?」
少し恥じらう世那を見てしまうと「ダメ」とは言えない。それに鰆と聞いて思い浮かんだ料理がある。
「なら今日はサワラのバター醤油焼きでも作ろうか」
「聞いただけで美味しそうです」
こうして二人はスーパーに寄っていくのだった。
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