第39話:やっぱり天然
四人で出かけた翌朝。
世那はお弁当を作る準備を始めようとリビングに向かうと、そこにはすでに着替えて調理を始めている奏多がいた。
「おはようございます」
「おはよう」
「私もお手伝いします」
「助かるよ。でもその前にまずは顔を洗ってくるついでにその寝ぐせも治しておかないとな」
言われた気付いた世那はかぁ~と顔を赤らめ、小走りで洗面所へと向かっていった。
洗面所で鏡を見ると髪の毛が跳ねていた。
まだ顔の赤みが残っているが寝ぐせを直しながら呟く。
「もっと早く言ってほしかったです。恥ずかしいじゃないですか」
髪を梳かす世那は鏡を見て、寝ぐせがないことを確認して満足そうに頷く。
「お待たせしました。私は何をすればいいですか?」
「卵焼きを作るから割ってボウルに入れて溶いといてくれ」
「分かりました」
慣れた手つきで卵を割りかき混ぜる。奏多はフライパンに油を入れて、時間を見計らって溶いた卵が入ったボウルを手渡す。
「ありがとう。後は~」
それから程なくしてお弁当が完成する。
朝食を作って席に着いたところでやっと一息ついた。
「作るのに慣れてきたか?」
「はい。ですがまだ卵焼きは上手くできません。どうやったらうまく巻けるんでしょうか?」
「卵焼きは練習しないと上手くならないからな~」
「でしたらこれからは私が作ってもいいですか? 私も奏多さんみたいに綺麗な卵焼きが作ってみたいです」
やりたいと言うなら断ることはしない。奏多は二つ返事で了承する。
ただ、世那は天然なところがあり、毎朝何かしらやらかすのだ。
お互いに食べ終わり、食器を持って立ち上がった世那がキッチンへと向かう。
「私が洗い物をしますね」
「ありが――きゃっ」
躓いた世那が手に持った食器が宙を舞い、割れる音と倒れる音が部屋に響いた。
「「――っ⁉」」
世那を受け止めたことで下敷きとなった奏多だったが、互いの息がかかるほどに近かった。
すると世那の顔が次第に赤くなっていき、奏多も同様に顔を赤らめ目を背けてしまう。
「ご、ごめんなさい!」
すぐに奏多の上からどいた世那は奏多から顔を背ける。というよりも、恥ずかしくてまともに顔が見えないからだった。
遅れて立ち上がった奏多。
「い、いや、大丈夫。それよりも怪我はしてないか?」
「は、はい。奏多さんが受け止めてくれましたので……」
「怪我がなくて良かった」
「ありがとうございます。あ、また食器を割ってしまいました」
奏多は割れた食器の片付けを始める。
「いたっ」
チクッと指先に痛みが走る。見ると指先から血が滲み出ていた。恥ずかしい気持ちを紛らわそうとして注意が逸れてしまった。
「大丈夫ですか⁉」
「あ、うん。大丈夫」
「絆創膏持ってきますね」
部屋にある絆創膏を持って戻って来た世那は、奏多の手をとって血が出ている指先に貼った。
「ありがとう」
「いえ。私のせいで怪我をさせてしまいました」
落ち込む世那を見て奏多は頭に手を乗せて撫でた。
「世那のせいじゃない。俺がもっと注意してればよかっただけだから、そんなに落ち込むなって」
「ですが……」
それでも申し訳なさそうな顔をしている世那を見て奏多はある提案する。
「なら明日の卵焼きは世那が作ってくれないか?」
「え?」
顔をあげる世那に奏多は柔らかい笑みを浮かべる。
「卵焼きの練習をしたいんだろ?」
「ですが」
それでも何かを言いたそうにする世那。
「俺は卵焼きを作る手間が省けるし、世那は卵焼きを作る練習になる。どうだ?」
「奏多さんがそれでいいと言うなら」
「よしっ、決まりだな」
奏多は割れた食器を片付け始める。
少し休み、学校に行く時間がやってきたのだった。
翌朝。世那はキッチンに立って集中していた。ゆっくりと溶いた卵を熱したフライパンに流し込み、丁寧に巻いていく。
奏多もおかずを作りながら世那に上手な卵焼きの作り方を教える。
「できました! どうですか奏多さん?」
見せてきた卵焼きは不格好ではあるが、それでも以前と比べて大分上手くできていた。焦げているところは多少あるが、それでも十分な成長だった。
「うん。前に比べて上手くなってる」
「本当ですか?」
「ああ。前は焦げていたからな」
世那は恥ずかしそうに笑った。
「それはお砂糖を入れ過ぎただけであって……」
言い訳する世那も可愛らしく、奏多は思わず笑ってしまう。
「どうして笑うんですか」
不満そうに頬を膨らます世那に謝る奏多。
「ごめんごめん。馬鹿にしたわけじゃないんだ」
「ならどうして笑ったんですか?」
「いや……」
正直に「言い訳する世那が可愛かったから」とは言えず黙り込んでしまう。
黙った奏多を見て、世那はさらに不機嫌そうな表情をする。
「やっぱり馬鹿にしたんですね」
「ち、違うって!」
「ならどうしてですか! 答えてください!」
ジーッと見つめてくる世那に奏多は諦めたように、それでいて恥ずかしそうに答えた。
「言い訳する世那が可愛かったから、つい……」
「~~~ッ!」
一瞬で顔が真っ赤に染まる世那は奏多に背を向け。
「――奏多さんのバカッ! そういう恥ずかしいことを平然と言わないでください!」
恥ずかしいから言いたくなったと思う奏多であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます