第38話:放課後のお出かけ
「終わったぁぁぁぁぁあ!」
テスト最終日。教室に誰かの声が響き渡った。一人だけじゃない。男女関係なくテストから解放されたことによる喜びで満ちていた。
奏多はテストから解放されたことで大きな溜息を吐いた。
「お疲れ。テストはどうだった?」
「うーん。赤点はないと思うけど」
「俺は全部が不安だよ。赤点はないって言えるお前が羨ましいよ」
俊斗は羨ましそうに奏多を見る。
「無理やり勉強に付き合わされた結果だよ」
疲れた表情をする奏多を見て、その勉強相手が誰なのか察して方に手を置いた。
「努力の結果じゃないか?」
「だな。今は感謝しているよ」
テストが終わったことで今日の学校も終わりとなった。ホームルームで桜井先生がやって来た。
「お疲れ様。夏休みまで半日で終わることが多くなる。帰りに遊ぶのはいいが警察の厄介だけにはなるなよ。んじゃあ、私は採点があるから」
そう言って桜井先生は教室を出て行った。
みんなも次々と帰りだし、奏多が世那を見ると璃奈と話しているようだった。
「世那ちゃん、帰りにどっか寄ってお昼でも食べない?」
「昼食ですか」
「もしかしてお弁当とか持ってきてる?」
「いえ。家で食べようかと思っていました」
「ならどうかな?」
チラッと奏多の方を見る世那に気付いた璃奈は、あえて俊斗に声をかけた。
「俊くんと雨宮くんも行くでしょ?」
「ん? お昼か?」
「そうそう。みんなで買い物でもしながらどうかなって?」
「俺はいいぞ」
「雨宮くんはどう?」
三人して奏多を見ている。世那に関しては奏多が行くなら一緒にとでも言い気な表情をしている。
奏多は少し考えるも、答えは決まっていた。
だって、世那が行きたそうにしているからだ。
「何作ろうか考えてなかったし、たまには外食でもいいか」
「決まりっ!」
「そうと決まれば早く行こうぜ。お腹空いたわ」
お腹をさする俊斗を見て笑い、早々に帰る準備をして学校を出た。
歩きながらお昼は何を食べようかと璃奈が聞いてくる。
「そうだな。俺はなんでもいいかな」
「もう。それが一番困るんだよ。雨宮くんは分かっていないねぇ」
やれやれと呆れる璃奈に、俊斗が世那に尋ねる。
「天ヶ瀬さんは何か食べたいのとかはある?」
「私ですか?」
「確かに世那ちゃんが食べたことないのでもいいね」
俊斗の質問に璃奈も同意する。
もちろん奏多も、世那が食べたことない料理とかがあればそれでいいと思っていた。
そのことを伝えると、世那は少し考えたあと答えた。
「でしたら、その、ハンバーガーを食べたいです」
「ハンバーガー?」
「はい。普段、そのような物は食べたことがなくて、どういう味なのか気になっていました」
少し恥ずかしそうに言う世那を見て奏多たちは驚いたように目を開いた。
「意外だな」
「食べたことはあるのですが、家の人が作ったものしか食べたことがないので、皆さんが食べている味に興味があるんです」
「なるほどな。俺も最近は自炊ばっかりで食べ天かったから、久しぶりに食べたいな。俊斗に高倉さんはどう?」
「俺も賛成だ」
「私もー!」
決まったということで、四人は話しながらバーガー店へとやって来た。
定番のメニューから変わったメニューもある。
色々書かれているメニューを見て目を輝かせながら選んでいる世那は、少しして奏多を見た。
「奏多さん、オススメってありますか?」
学生も少なく、世那は奏多のことを名前で呼んでいた。
聞かれた奏多はメニューを見ながら答える。
「俺も久しぶりだけど、量が少ないので尚且つ定番メニューといえばこれだな」
「ではそれにします」
「他にもあるけどいいのか?」
「まずは定番メニューからですよ」
「なるほどな」
それから各々選んだメニューを注文し出来上がるのを待つ。程なくして番号が呼ばれ受け取りに行き店内で食べることにした。
包み紙を取った世那は興味深そうにチーズバーガーを観察しているので、奏多は説明する。
「牛肉のパティをバンズと呼ばれるパンに挟んだものだ。アメリカを代表する国民食だけど、ドイツが発祥の料理なんだよ」
奏多の説明に世那のみならず、俊斗と璃奈も「そうなんだ」と初めて知ったようだった。
初めて知ったというのは、ハンバーガーがドイツ発祥の食べ物だということ。
「詳しいですね」
「試しに作ってみたことがあってな。バンズは市販のを使ったけど、案外うまく出来たよ」
「なんというか、奏多さんらしいですね」
そう言って世那は初めてのハンバーガーをその小さな口へと運ぶ。
一口目が食べ終わった世那。
「美味しいです。皆さんが食べるのも納得です。また食べたくなりますね」
「でしょ!」
同意する璃奈は、手に持ったハンバーガーへとかぶりついた。
それから四人でゆっくりと食事を楽しむのだった。
その後、買い物を楽しんだ後、ゲームセンターへと立ち寄った。店内を回って少し。俊斗と璃奈は二人でゲームを始めてしまい、二人で店内を回り始めた。
すると世那が立ち止まりあるモノを見ていた。視線の先にあったのは可愛らしい猫のぬいぐるみだった。
「ほしいのか?」
「あ、いえ。その……」
恥ずかしそうにする世那は、少しして「はい」と答えた。
奏多は徐に財布から百円を取り出すと投入してクレーンを動かす。何も言わずに始めた奏多に世那が止める。
「あの、悪いですよ。それに、こういうのは取れないようにできているって聞きました」
「ははっ、それは偏見だな。いいから見てろって」
そう言って何度かのプレイの後、上手く引っかかったぬいぐるみが景品の場所に落ちた。
落ちたことで音楽が鳴る。
「こうやって上手くやれば取れるんだ。コツが必要だけどな」
「凄いですね」
羨ましそうに見つめる世那に奏多はぬいぐるみを手渡した。
「ほら。ほしかったんだろ?」
「え? 悪いですよ。私が取ったわけではないので」
「なら俺からのプレゼントってことで」
「ですが……」
「世那のために取ったんだ。受け取ってほしい」
そう言うと世那はぬいぐるみに手を伸ばして掴みぎゅっと抱きしめた。
「あ、ありがとうございます……」
ぬいぐるみで口元を隠しながら、ほのかに紅く染まった顔で恥ずかしそうにお礼を言った。
そのあと、疲れて戻ってきた俊斗と璃奈を見て困ったように笑い、その日は帰るのだった。
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