第40話:夏休み前
夏休みも近くなり生徒たちは浮かれており、補習がある生徒は嘆いていた。
幸いにも奏多と俊斗、璃奈は赤点を免れたことで安堵していた。
昼食を食べながら、世那が満足そうな表情をしていた。
「お勉強をした甲斐がありましたね?」
「まったくだ。お陰で順位も上がったよ」
「俺も順位が上がってたよ」
「私も! お母さんに褒められちゃった」
三人が世那に勉強を教えたことに対して感謝する。
「いえいえ。私が分かることを教えただけですので。それほどのことはしていませんよ」
「まあ、謙遜するなって。世那のお陰なんだから」
「そうでしょうか?」
「そうだよ! 世那ちゃんのお陰だよ!」
「ど、どういたしまして」
昼食も食べ終わり、中庭で時間を潰すことにした。
小鳥の囀り、蝉の鳴き声が聞こえてくる。
「二人は旅行行くまでの間とかは何するんだ?」
奏多の質問に俊斗と璃奈は顔を見合わせる。
「特に考えてなかった」
「あははっ、だね」
俊斗は「でも」と続ける。
「まあ、一緒に居ることが多いと思うな。お互いの家に泊まったりすると思うし」
「お、お泊りですか⁉」
泊まると言う言葉に、世那は顔を赤くする。奏多はそれを見て世那が何を考えているのか察して呆れた表情となる。
奏多が口を開こうとして、先に璃奈が口を開いた。
「お互いの家に遊びに行くだけだよ。一緒に出掛けたりとか」
「そ、そうなんですか?」
「うんうん」
頷く璃奈は顔を赤くして俯いている世那にニヤニヤしながら耳元で。
「ところで世那ちゃん」
「ふぇっ⁉ な、なにも考えていませんよ! 清いお付き合いをしているんだなと思いまして、決してそのようなことは――」
「私、まだ何も言ってないよ?」
「~~~ッ」
「あははっ! 世那ちゃん可愛い」
さらに顔を真っ赤にする世那を見て璃奈は面白そうに笑う。
勘違いした世那も悪いが、それでも少し可哀想だなと思った。なので奏多は、笑っている璃奈にほどほどにしておくように告げる。
「揶揄うのはそれくらいにしておけって」
「だって反応が可愛いんだもん」
「もんじゃない。俊斗も何か言ってくれ」
「俺は見てて面白かったけどな。でもまあ、奏多の言う通りほどほどにな」
「はーい」
適当に返事する璃奈を見て奏多は若干の不安を覚えるのだった。
昼休みも終わり教室に戻る。午後の授業は特にない。すると桜井先生が全員いることを確認してから口を開いた。
「よーし。午後は特にやることはないから自習にする。各自出された課題をやってもいいぞ。私は少し予定があって三十分ほどいないが騒がないようにな」
そう言って教室を出て行った。残された生徒は少しでも夏休みを楽にしようと課題に取りかかった。
量はそこまで多くなく、数日あれば終わる量になっている。
奏多も課題をしていると、俊斗が振り返ってくる。
「一緒にやらないか? わからないところもあるだろうし」
「そうだな。そうしようか」
俊斗の提案で一緒にやることになった。一緒に課題を進めていると俊斗が聞いてきた。
「夏休み、出かけない間は何するんだ?」
「う~ん。考えてなかったな。特にやることがなければゆっくりしようかな」
「え? デートにはいかないの?」
「は?」
奏多はデートという言葉に思わず反応してしまった。
誰と行くのか?
当然、奏多のデート相手は世那ということだ。
「いやいや。付き合ってもいないのにデートって言い方はないだろ」
「デートだよ。付き合っているとかはともかく、男女で出かけるってことはデートということだよ」
「そうなのか?」
デートと言われると少し違和感がある。
「じゃあ例えばだけど」
そう言って俊斗は例を話す。
「仲の良い男女が一緒に買い物しており、奏多はそれを見て二人が何をしていると思う?」
「そりゃあデートだろ。仲の良い男女が一緒でデートだと思うのは自然じゃないか?」
「そういうことだよ。二人が一緒に出掛けていたら、どのような関係だとしても他人から見ればそれはデートなんだ」
俊斗の説明に奏多は思わず納得してしまった。
「だけど、スーパーに買い物行くのはデートじゃないだろ?」
「どうだろう。人によるんじゃないかな?」
「難しいな」
「奏多も分かる時がくるさ」
そう言って俊斗は課題と向き合った。奏多も今はいいかと考えるのを止め、課題に取り掛かるのだった。
数日して、夏休み前最後の登校日となった。
奏多と世那はいつもの道で学校に向かう。蝉の鳴き声も大きくなり、頭の中に響いてくる。
「もう夏ですね」
「だな。これからもっと暑くなるのか」
「ふふっ」
口元に手を当てて上品に笑う世那の制服はここ二週間前から半袖になっていた。
陶磁器のような白い肌は、日焼けによる赤みもなく美しく保たれてる。
「日焼け止めか」
「はい。奏多さんも使いますか?」
「いいや。俺は使わないかな」
「でも肌白いですよね?」
奏多の肌の白さを見て言ってくる世那。
「あまり外に出ることはなかったからな。運動部に入ってもいないし」
「帰宅部でしたね。私もですけど」
笑う世那に、奏多は部活に入らない理由を話す。
「運動が得意じゃないのと集団が苦手。それと一人暮らしをしていたことも理由かな。今は一人舎無くて二人だけど」
「そうだったのですか。私も勧誘がありましたけど、その時は実家の事情で入れませんでした」
「今は?」
「今はこの生活が楽しいので遠慮しておこうかと。それに部活は学生として忘れられない思い出になりますが、奏多さんと同じで集団が苦手でして」
困ったように笑う世那を見て、奏多も釣られて笑う。
「似たもの同士ってやつか」
「ですね」
こうして二人は夏休み前最後の登校をするのだった。
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