第41話:始まった夏休み
夏休み前最後の学校が終わり夏休みに入った。
木々の葉の甘い匂いと爽やかな花の香りがほのかに染み込んでいる、爽やかな夏の朝の風がリビングへと入り込む。
外からは蝉の鳴き声が聞こえてくる。
コーヒーを淹れて朝食の支度をしていると世那が起きてきた。
「おはようございます」
眠そうな瞼は今に落ちそうだ。そんな瞼を擦りながら可愛らしい欠伸をする。
「おはよう、世那。顔を洗ってきな。その間には朝食ができるから」
「ありがとうございます」
眠そうな世那はふらふらしながらも洗面所へと向かった。少ししてドスンッという大きな音が聞こえた。
準備を中断して音の聞こえた洗面所へと向かい扉を開けると、そこには転んで洗濯籠にお尻から嵌っている世那がおり涙目でやってきた奏多を見ていた。
「だ、大丈夫か?」
「は、はぃ……あの、助けてください」
奏多は呆れながらも洗濯籠にすっぽりと嵌っている世那を救助する。
「怪我はしてない?」
「大丈夫です。ありがとうございます」
「なら良かった。もう少しでできるから」
「分かりました」
キッチンに戻り朝食の準備を済ませて席に着くとちょうど世那が戻ってきた。
先に着いた世那は奏多に先ほどのお礼をする。
「先ほどはありがとうございました」
「気にするな。助け合いだからな」
手を合わせて「いただきます」と言ってから食べ始めた。
奏多は世那に、どうしてあのようなことになっていたのかを聞いてみた。普通、籠に嵌るという事態には陥らないからだ。
すると世那は恥ずかしそうにしながらも説明する。
「実は洗濯籠に躓いて転んでしまい……」
「どうやったら洗濯籠に入ったのかが謎だよ」
「そ、それは私にもさっぱりで」
「前回はお風呂掃除を任せたらずぶ濡れになっていたし」
悲鳴が聞こえたので見に行ったら、びしょ濡れの姿になっていて色々と透けていた。
「そ、それは忘れてくださいって言いましたよね⁉ このお話はもう終わりです!」
世那は小さく「恥ずかしくて死にそうです」と呟いたが、奏多には聞こえなかった。
奏多は恥ずかしそうにしている世那を見るのはとても楽しかったのだが、これ以上弄るのは可哀想だったのでやめることにした。
朝食を食べ始める。食べ終わり片付けをすませてソファーでゆっくりする。
やることもなく、ただのんびり外を眺めてコーヒーを飲んでいた。
すると世那のスマホが鳴った。
「誰でしょうか? って、お父様ですね」
相手が父、宗司ということで世那は電話に出る。
「お父様、おはようございます。世那です」
『おはよう。今は家かね?』
「はい、そうです」
『奏多君もいるのかな?』
「一緒ですよ。何か御用でしょうか?」
『前に、夏休みに入ったら顔を見せに来なさいと言ったのを覚えているかい?』
「はい。いつ頃行こうか考えていました」
『そうか。一週間後に奏多君のご両親とウチで食事をすることになってね。それで一緒にと思ったんだ。来るかい?』
「そうなんですか? 奏多さんに聞いてみます」
保留にした世那は奏多に先ほど宗司が言っていたことを話す。
話を聞いた奏多は目を見開いた。
「え? 父さんと母さんが世那の実家で食事?」
「はい。ご招待したそうで」
「そっか。家に帰る予定もあるし、ついでに一緒に帰るか。宗司さんにはいくように伝えてほしい」
「分かりました」
世那は保留を解除する。
「お父様、お待たせました」
『それで奏多君は?』
「行くそうです。帰りはご両親と一緒に奏多さんのご実家に行くそうです」
『そうか。来るのか。帰りか、世那はどうすんだい?』
「私も奏多さんのご実家に行こうかと思っています」
『分かった。じっかり準備してから来るように。また駅まで迎えの車を向かわせよう』
「ありがとうございます。では」
電話を切った世那は奏多を見る。
「あらかじめ奏多さんのご両親に聞いておいて良かったですね」
「だな。多分、向こうも俺達が行くと思っているだろ」
奏多はスマホを手にして徐に電話をかけ始めた。
「あの……」
「母さんに電話で聞いてみる」
何度かのコールの後、通話に出た。
「もしもし母さん?」
『どうしたのかー君?』
「恥ずかしいからかー君は止めてくれって言ってるじゃん」
『可愛いんだからいいじゃない』
「はぁ……」
『電話してきたってことは、天ヶ瀬社長からご招待の件でしょ?』
奏多が電話してきた理由を一発で当てる母。
「そう。それで、前に世那を家に泊めて地元でも案内しようかなって話したじゃん」
『そうね。帰りに一緒にいいかって? もちろんいいわよ。結華も喜ぶわ』
「ありがとう。結華は元気にしてる?」
『ええ。早く帰って来いってずっと言ってるわ』
「また怒られそうだ。もしかして結華も一緒に来るのか?」
『ええ。社長からご家族でって言われたから。結華、すっごく楽しみにしているわよ』
大企業の社長。それも日本が誇る財閥の自宅と食事となれば楽しみで仕方がなかった。
「そっか。はしゃぎすぎて迷惑にならないように言っといてくれ。それじゃあ」
『言っとくわ。それじゃあ、かー君あまたね~』
そう言って通話は終わった。
「大丈夫だってよ」
「良かったです。ありがとうございます。かー君」
最後に悪戯っぽい笑みを浮かべて奏多のことを呼ぶ世那に、思わず見惚れそうになる。
「だからかー君呼ぶなって」
「ふふっ」
「ははっ」
可笑しくて二人して笑うのだった。
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