第34話:学校で

 夕方。俊斗と璃奈は荷物を片付け帰る準備を始める。

 程なくして準備も終わり、二人は玄関へと向かい靴を履く。


「今日はありがとう」

「二人ともありがとう」


 璃奈と俊斗は二人にお礼を言う。


「お昼美味しかったよ。また食べに行くね!」

「また食べに行くよ」

「食べるために家まで来るんじゃねぇよ」


 そんなやり取りを見て世那がふふっと笑う。奏多たちも釣られて笑ってしまう。


「お邪魔しました。また学校でね!」

「お邪魔しました。また明日な」


 二人は軽く手を振って帰って行った。

 その後、テーブルを片付けて夕食まで時間があるのでゆっくりすることに。


「友達との勉強会って新鮮で楽しかったです」

「何気に俺も初めてなんだ」


 世那は以前まで家庭教師がいたので勉強会などは必要がなかった。奏多は逆に、やることがないので妹の結華に勉強を教える次いでに自分も復習をしていた。加えて奏多は両親が家にいることが少ないので家事をしなければいけなかったというのもある。


「またやろうか」

「はい。次が楽しみです」


 翌朝の月曜日となり、昨日の晴れた空が嘘だったかのように重いグレーをしており、か細い糸のような雨が窓を伝う。

 土砂降りのような雨ではないだけマシだった。

 二人は朝食を食べ、学校に行く支度を済ませて家を出た。


「まったく奏多さんは。私より早く起きてお弁当を作るんて」


 世那は拗ねたように口を尖らせていた。

 世那は奏多の負担を減らすため、お弁当だけでも作ろうとしていた。だが起きるとすでに奏多がお弁当のおかずを作っていた。


「俺は負担になってないから気にしなくていいのに」

「気にしますよ。もしかして、本当は私が作ったお弁当は不味かったですか?」


 奏多は首をぶんぶんと横に振って否定する。

 決して不味かったわけではない。


「世那に料理させるのはまだ不安なだけだよ」

「むぅ。なら一緒に作って、安心できると思ったら私に任せてください。それならどうですか?」


 これ以上言っても引くことはないだろうと判断した奏多は了承することに。


「でも無理はしないこと」

「はい♪」


 喜んでいるようで一安心する。

 それから程なくして学校に着いた。俊斗と璃奈は先に着いていたようで話し込んでいた。

 世那は静かに読書をしており、誰も邪魔しないようにと声はかけていない様子だった。


「二人ともおはよう」

「奏多か。おはよう」

「おはよう~」


 席に着いてバッグを置き、俊斗と璃奈と一緒に雑談を始めた。とはいっても奏多は二人の惚気を聞くだけだ。

 二人の話を聞いているとチャイムが鳴り桜井先生が教室に入ってきて出席を取る。


「今日も全員いるな」


 すると桜井先生は話している俊斗と璃奈を見て声をかける。


「久世と高倉。この後資料運び手伝えよ~」

「「え?」」


 名指しで言われた二人は「え?」と声を漏らして桜井先生を見る。


「なんかイライラした。独身の私に対する嫌がらせか?」

「嫌がらせに見えました⁉」

「そうだそうだ! イチャイチャして何が悪いんですか!」


 璃奈の発言に桜井先生のこめかみがピクッと反応する。


「よし。運んでくれるよな?」


 拒むことのできない圧を感じた二人は「はぃ……」と小さくだが頷いた。そんな二人を見て元気が出たのか桜井先生はホームルームを終わらせると教室を出て行った。


「なんで俺と璃奈だけ……」

「理不尽だよぉ~」


 シュンと落ち込む二人。どう考えてもホームルームでイチャイチャする二人が悪い。


「お前らが悪い。ホームルームくらい自重しろよ」

「うっ……」

「ご、ごめん……」

「謝るのは俺じゃなくて先生だろ。まあ、いいか。早くいかないと課題出されるぞ」


 そう言うと二人は急いで職員室へと向かっていった。

 世那は楽しそうな二人をクスッと笑っており、その笑みに男子たちは頬を染めていた。

 しばらくして授業が始まった。とはいってもテストも間近に迫っているので授業の大半は実習となっていた。

 桜井先生は数学の担当をしており、教室に入ってくると黒板にでかでかと「自習」と書いて気怠そうに外を眺めていた。


「はぁ……憂鬱だ。こんな時に彼氏でも入れば元気が出るのに」


 そんなことを一人呟いており、質問に行こうとしていた生徒が踵を返して静かに席へと戻った。

 誰もが思っただろう。「よく先生になれたな」と。

 そんな誰もが聞きに行こうにも行けない中、一人席を立って桜井先生のところに向かう人物がいた。


「桜井先生。少し分からないところがあるのですが」

「……ん? 天ヶ瀬か。どこだ?」


 学園一の美少女天ヶ瀬世那であった。

 一通り説明を聞くと世那は席に戻っていき、それをみて次々と生徒は質問しに向かった。

 奏多は隣の席にいる世那に小声で話しかけた。


「あの状況でよく聞きに行けたな」

「聞きに行けるような雰囲気ではなかったので、私が行けば他の方も行くかと」

「なるほどな。その効果はあったようだな」

「はい」


 会話はそれきりで、忙しそうに生徒を相手する桜井先生。

 そして奏多は隣で集中する世那を見てから教科書に視線を移しペンを持つ。


「さて、俺も集中しますか」


 こうして雨とペンを書き走る音、生徒と先生のやり取りをBGMに勉強するのだった。

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