第31話:お嬢様はお弁当を作ってみたい
翌日の朝。いつもの時間に起きた奏多はキッチンから音がするので着替えていくと、そこには料理をしている世那の姿があった。
まさか、昨日作ると言っていたのが本当だとは思わなかった。
「おはよう。まさか本当に作るとは……」
「おはようございます。お弁当って作るの難しいですね」
「代ろうか?」
「いえ。私が昨日言ったのです。ですので作ります」
「そ、そうか。気を付けてくれ」
失敗してもいい。だけど、それ以上に怪我だけはしてほしくなかった。
「奏多さんはゆっくりしていてください。それと、心配だからと見に来ないでくださいね」
「はいはい。なら顔でも洗ってこようかな」
洗面所へと向かい顔を洗いに行く。鏡を見た奏多は自分が不安な顔をしていることが分かった。
世那は奏多の表情が心配と物語っていたから言ったのだ。
「はぁ、顔に出し過ぎたか……」
タオルで顔を拭きパンッと両手で頬を叩いてリビングに向かった。
「できました!」
キッチンの方から満足そうな世那の声が聞こえてきた。
するとお弁当箱を持って世那が近づいて手渡してきた。
「奏多さん、どうぞ!」
「ありがとう」
受け取り鞄に入れる。
朝食を食べて学校に向かいながら世那に尋ねる。
「どうだった?」
「そうですね。少し苦戦しましたけど、上手くできたと思いますよ。奏多さんみたいに綺麗に詰められず不格好になってしまいましたが……」
「最初から綺麗に詰められないよ。俺も結構失敗してきたから、これから上手くなっていけばいいんだよ」
「そうですね。私頑張りますね」
満面の笑みで応える世那。別れ際、世那はこう言ってきた。
「帰ったら感想お待ちしてます」
「おう」
そうして学校に到着して授業を受けお昼休みとなった。
天気は快晴。外で食べようと向かうと俊斗と璃奈が付いてきた。
「奏多、一緒に食べないか?」
「外で食べるんでしょ?」
「そうだよ。一緒に食べようか」
三人で中庭にあるベンチへと行き、奏多は弁当を広げる。
焦げ付いている卵焼き、いい感じに焼けているウィンナーとあり、不格好ながらも普通のお弁当に見える。
すると奏多の弁当を見た俊斗が聞いてきた。
「あれ? 奏多が作ったんじゃないのか?」
「どうしてそう思った?」
「だっていつも綺麗に詰まっているからな。それに卵焼きも少し焦げているし」
すると璃奈がニヤッと笑みを浮かべた。
「あ、もしかして世那ちゃんが作ったとか?」
「……」
黙る奏多を見て二人は驚くように目を見開いた。すぐに璃奈が笑みを深め奏多の肩を小突く。
「へぇ、世那ちゃんの手作りか~羨ましいなぁ?」
「うるせぇ。本人が作りたいって言うから断れないだろ」
「手伝ったの?」
「いいや。全部一人で作ったよ」
「うそっ! 料理苦手って言ってたけど」
「まあ、普段から俺が料理作るのを手伝ってくれたからじゃないか?」
その説明に二人は納得した様子を見せた。
そして奏多が最初に食べたのは卵焼きであった。卵焼きを口へと運ぶ。
「んっ⁉」
卵焼きはめちゃくちゃ甘かった。
「あ、甘い……」
思わず口から出た感想に二人は笑った。
「いいじゃん。何が悪いの?」
「いいや。甘すぎるんだ……焦げていた理由が分かったよ」
「ははっ。まあ、これから教えればいいんじゃないか?」
「だな」
ウィンナーや他のおかずに問題なかったのが幸いだった。
それから昼食を済ませて談笑していると時間になり教室に戻った。すると世那が奏多を見た。その視線は「どうでしたか⁉」と物語っていた。
奏多は帰りに話すことにした。
午後の授業も終わり、担任の桜井先生がやってきた。
「よ~し。みんないるな?」
見渡して全員がいることを確認すると満足そうに頷いた。
「とはいっても言うこともないしホームルームも終わりにしよう。私も仕事をさっさと片付けて合コンに行きたいからな」
私情駄々洩れな桜井先生にみんながこそこそと話す。
「合コンって、どうせまた失敗に決まってるよな」
「だな。あんな性格の~ヒィ⁉」
話していた男子の前に桜井先生がやってきて満面の笑みを浮かべている。
「よ~し。お前には特別にこの課題を出そう。明日にはもってこいよ?」
その分厚い課題を見て男子生徒の顔が青くなる。周りを見渡すが誰も助けようとせず、飛び火しないようにと俯いている。
「お、お前ら裏切るのか⁉」
「しっかりとやってくるんだぞ? い・い・な?」
「はぃ……」
「よし。他はいないな?」
誰もが無言になる。それを見て笑みを浮かべた桜井先生は教壇に戻る。
「んじゃあ、気を付けて帰れよ」
ホームルームも終わり、各々が帰宅する。部活がある人は部活に行く。
そんな帰り道、公園で世那が奏多を待っていた。姿が見えると軽く手を振るので奏多も振り返す。
「お待たせ。いつも言うけど待たなくてもよかったのに」
「いえ。そうはいきません。それに買い物もありますから」
「それもそうか」
するとソワソワと落ち着きのない様子を見せる世那。
「あの、お弁当どうでしてか?」
「そうだな」
正直に話すか迷い、嘘は言いたくないので正直に話す。
「一つ問題があるとすれば、卵焼きが甘すぎことだ」
「やっぱり……」
シュンと落ち込む世那。どうやら本人も自覚していたようで、奏多からはこれ以上言うことはない。
「他に関しては及第点だな。詰め方に関してはやりながら学べばいいし」
「はい」
「なら今日は卵焼きでも作ろうか」
「え?」
「教えるよ。世那の作った弁当は美味しかったからな。卵焼きも上手く作れるようになろうか」
すると世那は顔を上げ奏多を見て、屈託のない笑みを浮かべながら答えた。
「はい! お願いします!」
こうして夕食は卵焼きになるのだった。
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