第32話:梅雨とテスト勉強
梅雨に入って雨ばかり降っている。朝から空は暗く沈んでおり、雨の音は耳鳴りのように絶え間なく頭の奥で響いている。
お弁当を作っていると世那が起きてきた。
「おはようございます」
眠そうに瞼を擦りながら窓の外を見る。
「今日も雨ですね」
「梅雨だから仕方がない。外で弁当が食べれなくて残念だ」
「天気が良いといつも外ですもんね」
「春だったからな。夏とかだと暑くて嫌だけどね」
夏は涼しいところで食べるのが一番だと言うと、世那は面白そうにふふっと笑った。
それから準備を済ませて登校する時間までのんびり過ごす。
雨の音は止まずいまだに降り続ている。
「梅雨が明ければ夏ですね」
「まったくだ」
「夏は嫌いですか?」
「嫌いでもないが好きでもないって感じだな。いや、どちらかと言えば嫌いなんだろうな。世那はどうなんだ?」
「私は好きですよ。毎年避暑地に家族でいってます」
避暑地の代表的なところを挙げれば軽井沢や箱根である。
「別荘ってやつか?」
「はい。とはいってもあまり使っていないので家族で過ごせるくらいの大きさですが」
「別荘か。管理とか大変そうだな」
「管理は他の人に任せています。ちょうど、別荘がある方にも会社があるみたいでそちらの方に管理を任せているそうです」
「そ、そうか……」
大企業の社長だからできることなのだろうと思う奏多は時計を見る。時間も結構経っており学校に行くため家を出る。
傘を差して学校に向かいながら世那が近くの植物を見ながら口を開いた。
「私、梅雨って案外好きなんです」
「そうなんだ。何か理由があるのか?」
「梅雨の季節にしか咲かさない花があるじゃないですか」
そこで奏多は世那の実家に行った時のことを思い出す。世那は花について詳しかった。
「梅雨に咲く代表の花は
「へぇ~。今度花を見に出かけるのも悪くないな」
「その時は私もご一緒しますね」
「是非頼むよ。花に関しては詳しくないから」
何も知らずに楽しむよりも、知っている人が「この花は~」と説明を受けながら見た方が万倍も楽しめると思ったのだ。
それから道に咲いている花の話などを聞いているうちに学校の近くまでやってきた。
「それじゃあまた後で」
「はい。後ほど学校で」
別々に学校へと向かう。少しして学校に着いて席に座る。空が重いグレーなこともあり、教室は薄暗かった。一人の生徒が電気を付けると一気に教室が明るくなる。
遅れて教室に来た俊斗と話しているとホームルームが始まった。
桜井先生が教壇に立ち教室を見渡す。
「よし。全員いるな。雨だからとサボらなかったのは褒めてやろう。まあ、先生は車だけどな」
「ずるい! 雨に打たれながら登校してきた俺達の気持ちを考えろ!」
「いっそ俺達を送迎しやがれ!」
「そうだそうだ!」
桜井先生の笑みが増す。
「そーかそーか。そんなに課題を増やしてほしいのか?」
その瞬間、クラスの誰もが沈黙する。誰だって課題を増やされたくないからだ。
「それにもう時期テスト期間に入る。みんなに課題を出してやろう。嬉しいだろ?」
男子を筆頭にブーイングが起こる。
「よし。覚えておけよ? それじゃあ授業頑張るんだぞー」
そう言って桜井先生はホームルームを早々に切り上げて教室を出ていった。
桜井先生の言う通り、テスト期間が差し迫っていた。それにより先生たちも忙しそうにしており授業も復習や自習などが多かった。
放課後、生徒たちも大半が帰り、教室には俊斗と璃奈、奏多の三名が残っていた。
「奏多は帰らないのか?」
「いいや。もう少し残ろうかなって」
「どうし――あっ!」
そこで璃奈は思い出したようだ。
世那は桜井先生に呼ばれて職員室に行っていた。
「そういうこと。優しいね」
「うるせぇ」
照れる奏多を見て笑う二人。そこに教室の扉を開ける音がした。
「三人ともどうされたのですか?」
「あ! 世那ちゃん! いやぁ~、奏多が可愛いなって」
璃奈のよくわからない言い分に首を捻る。
「なんでもない」
「ならいいのですが。ところでされていたのですか?」
「雑談かな?」
「まあ、そうともいう」
「だね~」
俊斗の言葉に奏多と璃奈は頷く。すると璃奈が世那に頭を下げる。
「世那ちゃん、勉強を教えてください!」
「いいですよ」
「本当⁉ やったぁ! 赤点取ったらお小遣い減らすって言われて」
へへっと笑う璃奈に困ったように世那は笑った。
すると俊斗もそこに便乗してきた。
「なら俺も教えてもらうか。璃奈が勉強頑張るなら俺も頑張らないとだからな」
璃奈の頭を優しく撫でる俊斗は、チラッと奏多を見る。
「奏多もやるだろ?」
「まあ、教えてもらえるならやるか」
「決まりだな。今週の休みにでも集まって勉強会でもするか」
「場所はどうする~?」
問題は場所だった。
すると二人の視線が奏多へと向かう。
「と、図書館でもどうだ?」
「ちぇっ」
「つまらん」
璃奈と俊斗はつまらなさそうな顔をする。
「はぁ、わかったよ。うちに来い。いいか?」
奏多は世那に確認をするも。
「私は住まわせてもらっている側ですので、それにみんなでお勉強するのも楽しそうです」
「じゃあ決まり!」
「だな!」
「はあ、散らかすなよ」
こうして週末はお勉強会することが決まるのだった。
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