第15話:天ヶ瀬邸③
他愛ない話をして三十分が過ぎようとし、宗司が時計を見た。
「おっと、もうこんな時間か。奏多君早く戻りなさい。世那が待っているよ」
「そうですね。ではまた後で、ですかね」
「そうだね。夕食になったら呼ぼう。それまでは庭見たりして自由にしていてほしい」
「ありがとうございます」
出て行こうとドアノブに手をかけたところで呼び止められたので振り返った。
「君は世那のことをどう思っている?」
「どうと言われましても……」
奏多にとって世那は同じクラスメイトで、同居人で。だからそれ以上でもなくそれ以下でもない。恋愛感情があるのかと問われれば皆無と言えた。
世那は世間から見ても超が付くほどの美人ではあるが、それでも恋愛感情はないと言えた。
だから奏多は宗司の問いにこう答えた。
「今は世那に恋愛感情は抱いておりません。ただ……」
「ただ?」
「大切な友人だと思っています」
「そうか。今はまだそれでよしとしよう」
奏多には宗司が、少し不満そうでそれでいて満足そうな顔をしていた理由が分からなかった。
奏多が出て行った部屋で、冷めたコーヒーを飲みカップを置いて静かに呟いた。
「世那があそこまで変わるとは思わなかった。奏多君になら世那を安心して任せられそうだ」
部屋に戻ると世那がお茶を飲んで待っていた。
「お待たせ」
「おかえりなさい。お父様に何か言われましたか?」
何を言われたのか、それで奏多が不機嫌になっていないか心配になる世那に笑みを浮かべる。
「いいや。大したことないよ」
「なら良かったです。父が奏多さんに何か言ったのかと思い心配でした」
世那がホッと肩を撫で下ろす。
時刻はまだお昼過ぎ。
「あの、良ければ少しお庭を案内しましょうか?」
「いいのか?」
「はい。天気もいいですから」
「流石に一人だと迷いそうだから案内しえてくれるなら助かるよ」
「では行きましょうか」
世那に案内されて庭へと案内された。そこは庭というよりも、庭園と呼べるほどに広かった。
手入れの行き届いた庭には様々な木々や花が咲き乱れており、心地よく流れてくる風に乗って花の良い香りが運ばれてくる。
「綺麗だな」
「はい!」
零れ出た言葉は世那に聞こえており、振り返った彼女の表情には笑みが浮かんでいた。
花々が彼女の魅力をより一層引き立てており、思わず奏多は見惚れてしまった。
「そ、それじゃあ案内を頼むよ」
こうして世那による庭園の案内が始まった。西洋や日本などの様々な花が咲いている。
「こちらはバラですね。ちょうど咲き始めですね」
赤やピンク、白などの色とりどりのバラが咲いている。世那が近づき香りを楽しんでいる。
「バラって手入れが難しいイメージがあるな。昔母さんがやろうとして諦めていたよ」
「バラって案外手間がかからないんですよ。原種や古い種なら無理なく育てられますよ」
「物知りだね」
「この庭園を管理する職人さんから聞きました」
そこから少し歩いて次の花を紹介する。
空に向かってまっすぐに伸びた茎に一輪の大きな花が特徴の花だ。
「こちらはアネモネという花です。地中海沿岸を原産とする花だそうです。花が風に揺れる姿が儚げで、名前がギリシャ語で風を意味するanemosに由来するようで、別名ウィンドフラワーとも呼ばれているそうです。時期的にあと少しで終わってしまいます」
そう言って世那は寂しそうに笑った。
それから世那に庭園を案内されながら色々な花のことを教えてもらい、時間は圧倒今に過ぎていくのだった。
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