第27話:ピクニック④

 公園の池の周りを世那と璃奈は歩く。


「こうやって話すのは初めてだね」

「そうですね」


 会話が終わり二人はゆっくり歩く。

 先ほどまで座っていたベンチでは、奏多とつむぎが楽しそうに遊んでいた。

 それを離れた場所で眺めつつ璃奈は聞いた。


「それで、二人で暮らすってのはどんな気分なの?」


 璃奈は卒業後、彼氏である俊斗と一緒に同棲することが決まっており、二人で暮らすのはどういった気持ちなのか気になっていた。

 それゆえの質問だった。

 世那は桜色の唇に人差し指を当てながら「そうですね」と考える。


「最初は戸惑いました。ですが奏多さんはとても優しく、家事も料理もできない私に怒りすらしませんでした」

「雨宮くんが調理実習で作ったハンバーグ、美味しかったな」

「はい。私の毎日の楽しみは奏多さんが作る料理ですから」


 奏多の作る料理はどれも絶品だった。


「それと、先ほどの質問ですが、私は奏多さんと一緒に暮らしていて楽しいですよ。素の私を見ても何も言わないどころか、笑っていましたから」

「素の世那ちゃん?」

「はい。学校とかでは頑張って優等生を演じていますが、家出はダラダラしているんです」

「へぇ~、優等生の意外な一面を知ってしまったよ」


 笑う璃奈に世那はきょとんとした表情を浮かべた。


「失望しないんですか?」

「しないよ! むしろ完璧じゃなくて安心したくらいだよ。何でもできる完璧な人って、案外近づきずらいよ」


 完璧であればあるほど、その人に欠点がなければ怖いというもの。

 何かしらの欠点があるからこそ人間という生物であり、生きているというのを実感できる。


「だから、完璧になろうとしなくていいんだよ」

「ありがとうございます」

「いいよいいよ」


 再び歩き出す。


「でも二人で暮らすって楽しいんだ」

「はい。とても楽しいですよ」

「世那ちゃんの顔を見たらわかるよ。楽しくて幸せだってことが」

「へ? そ、そうでしょうか?」

「うん。だって、世那ちゃんは分からないと思うけど、少し変わったなって」


 わからず首を傾げる世那に璃奈は説明する。


「前は近づくなって感じで話していて壁を感じたけど、今だとあその壁がないんだもん。変わろうとした結果だね」

「私にはわかりません」

「そういうもんだよ。自分だと気付かなくても、他人から見れば変わったなって。好きなんだね」

「――ふぇ?」


 唐突の「好き」という単語に固まる世那を見て面白そうに笑う。

 徐々に頬を染める世那は否定しようと慌てて口を開いた。


「ち、違います! 私は奏多さんのことを好きとかそういうのではないです!」

「違うの?」

「その、私には恋愛感情などはよくわからなくて……多分、友人として好きなんだと思います」

「なら、奏多くんが他の女性と仲良くお出かけしているのを見たらどう思う?」


 言われて世那は想像する。

 自分の知らない女性と一緒に楽しそうにしている姿を。

 ズキッと心が締め付けられるように痛くなる。切ない、悲しい、一緒に居たい。

 色々な思いが溢れるように感情を埋めていく。


「で、どう思った?」


 璃奈の問い。それに世那は応える。


「とても胸が締め付けられるような思いです」


 世那は悲しい表情をし、その手を璃奈が優しく握りしめた。


「なら答えが出てるじゃん」

「これが好きという気持ちなのでしょうか?」

「さあ? これ以上は教えられないかな」


 悪戯っぽい笑みを浮かべる璃奈に、世那は何とも言えない表情をする。


「でも、恋愛がなんたるかは、俊くん大好きな私が教えてあげよう!」


 それかた世那は璃奈から恋愛がなんのかを色々と聞かされることになった。

 そして戻った頃には、二人揃って木の陰で寝そべって気持ちよさそうに寝ているのだった。



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